市川猿之助さんの痛ましい事件からも、完璧な自己像を求めすぎることの危険性をひしひしと感じます。失敗や挫折のない人生を送る人はいません。そこで苦しみや絶望から立ち直る力になるのが、セルフ・コンパッション。自分に優しくすること。プラス面もマイナス面も持つ、ありのままの自分を認めて明らめることです。
目次
セルフ・コンパッションとは?
セルフ・コンパッションとは自分に思いやりを持つことです。優しくすること。
良いところも悪いところもある、等身大の自分を認めて、許して大切にすることです。
セルフ・コンパッションの3つのキーワード
セルフ・コンパッション研究の第一人者クリスティン・ネフ博士は、セルフ・コンパッションに欠かせないキーワードがあると言います。
それが以下の3つのキーワードです。
・自分に優しくすること
・共通の人間性に触れること
・マインドフルネス
セルフ・コンパッションは、大前提として、自分に思いやりを持つこと。
いつでも自分の1番の味方になってあげることです。
そして、苦しい思いや失敗をしたときに、「完璧な人生を送る人は誰もいないこと」を思い出して、
目の前の人や現実に心を閉ざすのではなく、心を開くこと。
今の自分をマインドフルに見つめて、少しでも自分を大事にし、心が安らぐ考え方や行動をとることです。
参考:自分が自分の一番の味方に。はじめてのセルフコンパッション入門。
セルフ・コンパッションは、自己成長に欠かせない
となれば、セルフ・コンパッションは、人に迷惑をかけるような、わがままや自堕落に生きることなのではと、誤解されることもあります。
しかし、ネフ博士が考える、セルフ・コンパッションのゴールは、人にも自分にも優しくすることです。
まず自分のことを大切にして、自分と同じように傷つきやすい心を持つ他の人のことも大切にしたいと願う心を育てることです。
それは、他人を大切にしないといけないと、自分を犠牲にするわけでもなく、
好き勝手に振る舞って、周りの人を傷つけることでもありません。
つまり、セルフ・コンパッションは、自分と周りの人のことを大切にするという自己成長のために欠かせない実践です。
それは、まさに
興味深い逆説ですが、ありのままの自分を受け容れたとき、私たちは、変わることができるのです
The curious paradox is that when I accept myself just as I am, then I can change.
という有名な心理学者カール・ロジャーズの言葉のようです。
苦しい出来事や、嫌な人が現れる意味
華やかな生活や交遊関係をSNSで紹介していたスターの突然の事件を見ても、完璧な人生を送る人は誰もいないんだと改めて痛感します。
生きていると失敗したり、嫌な人と遭遇したり、大変な思いをすることがありますよね。
では、なぜそんなつらい思いをしなければいけないのか?
その謎を解く考え方に、心理学の投影があります。
投影は、私たちが自分の心を守るために無意識にとる機能のひとつです。
「ダメだ」と自分で封じ込めているホンネの欲求が、他人などを鏡にして、映し出されることです。
参考:嫌いな自分を赦せば、愛が叶う。投影を外し、人間関係のモヤモヤを一掃する心理学。
たとえば、本当は頼まれごとを断ったり、疲れていて休みたいと思っているとします。
でも、「それはいけない」「私はこうあるべきだ」と自分に課して、頑張っています。
すると、サボっている人が目につき、腹も立ちます。
また、他にも人がいるのに、どんどん仕事を任せてくる上司や、途中で仕事をやめてしまう同僚が周りに集まってくるかもしれません。
あるいは物理的にホンネを認めざるを得ない状況、たとえば私のように死にかけたり、突然病気になって、ホンネと向き合わざるをえない状況に陥るかもしれません。
参考:ありのままの自分で本当に幸せになれるの? マガジンハウスからホームレス編集者へ。アメリカ先住民ナバホ族の集落で死にかけて学べた私の幸福学。
嫌ったり、無いものにしたいと、心の奥に押さえ込んでいた、自分の弱さやずるさ、甘え。
そんな暗い一面は、抑圧していても、完全に消えてなくなるわけではありません。
そして、どんどん心の奥底に溜め込んでいくと、いずれ飽和地点を迎えたときに爆発します。
外に向かえば暴力衝動に至ったり、内に向かえば自分を責めて鬱などの精神疾患にもつながります。
そこでガス抜きのような感じで、自分の認められない自分の一面が、目の前の人や出来事として、鏡のように姿を変えて登場しているんですね。
嫌だなぁと思う出来事や、人は、自分が認めたくないと思っている自分の一面を教えてくれ、ホンネではどう生きたいのかと、自分の心と向き合うために現れているんです。
そこで問いかけてくるのは、こんな質問です。
あなたは、どんなふうにして生きたいですか?
本当はなにがあなたは嫌で、なにがあなたの本当の幸せですか?
と、確認してくれているんですね。
苦しいときほど、セルフ・コンパッションが必要
そこで、苦しいときほど、自分のホンネと安全な形で向き合うためにも、セルフ・コンパッションが必要なのです。
なかなか難しいことではありますが、ネガティブなことが起きたときに本当に必要なことは、その出来事や人を通して、しっかり自分の心と向き合うこと。
自分を責めるんじゃなくて、まず自分の中にあるシャドウを認めてあげることです。
そうすることで、少しずつ爆発寸前の緊張状態が和らいできます。
心理学者カール・ロジャーズは、「不安は今の自分を受け入れられないことで始まる」と言いました。
ありのままの自分が認められないと、不安になるのです。
そして、不安を隠すために、私たちは葛藤し、不安を上塗りすることでより強化してしまう行動をとってしまうんですね。
影を強くするようなイメージです。
そこでセルフ・コンパッションは、理想と現実の間でもがく、自分の葛藤を無くすためにも欠かせません。
今の自分を受け入れることができれば、私たちは現実に寛ぐことができます。
闇だと思っていた自分と、光だと思っていた自分が統合され、より完全な自分に戻ります。
そこで、前に向かうエネルギーもフル活用することができます。
また、より目の前の世界がよく見えるようになります。
そこで、自己成長は、ありのままの自分を受けいれることから始まるのです。
そのためには、自分が安全な形でホンネを表せること。
つまり、自己成長のためにも、まずは自分を責めるのではなく、自分に優しく、思いやりを持つというセルフ・コンパッションが欠かせないのです。
傷は、あなたに輝く光が入る場所
有名なスーフィズムの神秘主義詩人・ルーミーの言葉です。
完全な本来の自分に立って初めて、自己成長や自己浄化へと向かえます。
どんなにダメで認めたくない自分の一面でも、それがあることを認めなければ、次の一歩に進めません。
無いものとすると、スタート地点がずれてしまうんですね。
始点がずれたままだと、進めば進むほど、どんどん本来のゴールから遠ざかってしまいます。
そこで、自分の暗い部分が見えたことは、本来のゴールに向かう軌道修正をかけましょうというインビテーションです。
ルーミーの言葉でいうと、輝く光が入る場所です。
それは、決して「もうゲームオーバーだ」と言っているわけではありません。
つらいことですが、自分を責めたり、傷つけたりすることが求められているのではなく、魂が求めているのは、変わっていく自分を許すことです。
それは、より幸せになる自分を許すということです。
ダライ・ラマ14世は、私たちは、自分と他者を幸せにするために生きているといいました。
自分が幸せになることと、周りの人たちの両方が幸せになるというのは、自分を傷つけることでは無いはずです。
いいえ、周りの人たちはみんな自分を傷つけようとしている。
それが他の人たちの幸せなんだと、誰も味方がいないように感じてしまうときもあります。
そんなときは、お互いに、自分が自分の1番の味方になりましょう。
というのも、24時間365日一緒の存在は、世界中で、自分だけです。
そして、自分はたったひとりぼっちだと感じたとしても、私たちにはいつでももう一人の自分(真我、ハイヤーセルフ、プラクリティ)が寄り添ってくれています。
一人ぼっちには、なり得ないのです。
私たちの真我が、私たちのことをいつでも温かい目で見守ってくれています。