英語が全然わからない。そして白昼堂々サンフランシスコで強盗に合う#4

家賃は現金か小切手だと言われ、クレジットカードと現金で生活するにもそろそろ限界です。ということで、銀行口座を作ることにしました。しかし言葉がわからないなか、お金のことを扱うのは怖い。必要な単語(口座:account 預金:deposit引き出す:withdrawなど)をあらかじめ調べつつ、言いたいことはかろうじて伝えられるものの、相手の言っていることは4割ぐらいしかわからない。しかもそれにしっかり答えることが出来ない。語学学校近くのAmerican Bank、三菱UFJの傘下のユニオンバンクなどを訪ね歩いてみたけど、霧の街サンフランシスコで私の頭のなかは慣れないアルファベットまみれ。さらに曇っていました。

 

口座開設というラビリンスで立ち尽くしていたところ、語学学校の口コミで、ジャパンタウンの先のWellsFargoには、日本語を話せる担当者がいると聞きつけました。救世主! そして無事担当者のケンさんにお願いして口座開設。ホッ。ただ口座を開設するだけで2週間ぐらいかかったんじゃないかなと思います。そんなレベルで、海外で暮らそうとしたの? はい、そうです。

 

そんなレベルでさらにはバークレー大で、しかも心理学を勉強しようと決めたのにはワケがあります。私が会社を辞めてアメリカ行きを決断したScience of Happinessというインターネット講座をスタートしたのはカリフォルニア大学バークレー校心理学部のケトナー博士とそれを共同運営するエミリアナ・サイモントーマス博士です。エミリアナ博士は思いやりや利他の心を広げるための研究に治験者の脳波を測定するなどしてきた神経科学者。そんな彼女がバークレー大のオープンキャンパスで一般向けの講義をしたので向かいました。そして勇気を出して自己紹介をして名刺交換をしたのです。

 

英語も出来ないのに「取材をしたい」「ボランティアでもいいから研究室でお手伝いしたいからご連絡してもいいですか」と話して快諾されたので、後日一生懸命英文を考えてメールを送ったのです。すると、返信ナシ。まぁ当然ですよね。当時語学学校の担任だったマイケルはその話を聞いてカンカンに。「ワシが彼女に電話して話をつけてやろう!」と血気盛んになっていますが、まぁそれはこじれるだけの話です。「何のためにここまで来たんだろう…」と一週間悩みました。しかし落ち込んでいる暇はない。戻れる場所ももう、無い。追い詰められて視野が狭く、単細胞な私には「そうか、バークレー大の学生になって研究室に入ればいいんだ!」という解決法しか思い浮かばなかったのです。

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心理学を勉強したことがなかったので大学院なんて当然無理で、大学を受験しようと考えました。で語学学校も一般クラスからTOEFLクラスに変更。そこではジェイという強烈な女性が担任でした。彼女の見た目はそうですねぇ、明石家さんまさんの「妖怪人間知っとるケ」のユダヤ人ヴァージョンで、丸メガネをかけさせたと思っていただければ。最初は大きなイボのようなホクロが彼女の顔にあって、そこから長い白髪が出ているので、それが気になって英語の下手さ加減に嫌味を言われても集中できませんでした。が、それに慣れてくると「こりゃ、大変な事態だ」と気付くように。

 

授業は毎日ジェイがタイムウォッチを持って1分間の時間制限で、TOEFL的にジェイの質問に答える、というのから始まりました。「路駐についてどう思いますか。賛成か反対か、その理由とともに答えなさい」といったようなものです。ここで強調されたのは「あなたの信念なんてどうでもいい。賛成か反対か、一番英語でうまく説明されるものを選べ」と言われました。それは英作文も同じ。より説得力がある理由をつけられる意見で勝負せよと。そして路駐が法的にダメというのも日本はそうだけどサンフランシスコはOKなわけで、ハッキリしないものは「私が暮らす日本では」と加えろと。TOEFLを学びながら、それはもうなんだかすでにアメリカ人文化の洗礼を受けるようでした。

シャーペン禁止のTOEFLクラスだったので、鉛筆をジップロックに入れて持って行っていました。鉛筆は何か正解したり、良い作文を書いたりしたりするとジェイがくれました。

彼女の指導スタイルはユニークで、1時間問題を解かせて答え合わせをするのですが、その問題をもう一度見返して復習することは推奨されませんでした。毎回新しい彼女が用意した文法の教材などが配られるのです。けれどあるタイミングで私は自分がTOEFLにつまづいているのは、特に読解では単語力の問題では?と気づきました。内容を類推するにも知らない単語がありすぎるのです。そのためにはとにかく公式問題を解き続けて単語のパターンを頭に入れていくほうが早い気もしてきました。

 

同じクラスの10歳年下の台湾人学生には「そんなレベルでバークレー大で心理学勉強したいの? ありえない!無理でしょ」と毎日言い続けられるし、ジェイには「あんたはこれから始めたほうがいい」とドクター・スースの絵本を読めと言われる。絵本を読みながら情けなくて、啖呵を切ってアメリカに来たけど、両親にも職場の上司や同僚にも顔向けできないわと絶望していました。

「でも、ここから這い上がらないといけない」。授業が終わったら即図書館へ新聞を読みにいくも、1日1記事を2時間ぐらいかけて読んでも内容の3割ぐらいしか入ってこない(しかもその3割があっている可能性も低い)。いびきと悪臭を放って寝ているホームレスに囲まれながら新聞を読むも、New York Timesは難しかったので、USA Todayに切り替えて…と過ごしているうちに、また打ちのめされるような情報が。

 

「すでに大卒で学位がある人は、それがバークレー大であろうがなかろうが、出願出来ない」

 

ガビーン。そこで短大のシティ・カレッジに行って、過去の歴史はすべて白紙として、2年間そこで良い成績を納めて編入する方法に切り替えようとシテイ・カレッジで英語レベルの試験を受けました。「授業を受けられるレベルでしょう」ということで、では来週学費を振り込んでカリキュラム相談をしましょうというところまで話をつけ、学費を振り込むちょうど5日前に白昼堂々強盗にあったのです!

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それは語学学校が終わった後、真っ昼間に街の中心でバスを待っていたときのことです。忘れもしない、マーケットストリートの10番通りと11番通りの間だったわ…。身長190cmぐらいの黒人の男性が近づいてきて、私のカバンの中に手を入れて、財布とiphoneを掴み取ったのです。「それを取られたら、生きていけない!」と思った私は必死。取っ組み合いになって奪い返そうとするも、手を引っかかれて、走り去っていきます。




そこで2ブロックぐらい「彼を止めて〜!(Stop him!)」と叫んで追いかけるも、途中で彼が財布の中のカードや免許証をばら撒き、それを拾っている間に去って行ってしまいました。その場に居合わせた人は誰も止めてくれません。彼が銃を持っている可能性があるからです。実際警察官には「これからは絶対追いかけたり、抵抗したりしないでくださいね。命を落としますよ」と釘を刺されました。

 

もうどうしようもありません。ホームレスになりそうになったり、英語は絵本を渡されるようなレベル、大学の出願は無理と決まったり、ついには電話もお金も盗られてしまいました。頑張れば頑張るほど、空回りしていくような気がする。そもそも私の選択は間違っていたの? 直感任せももはやこれまで? 

 

そして私は伯父に連絡するのです。今まで会ったことのない、アメリカで暮らしているという父の一番上の兄に。

ー#5に、続く。