HSPってなに? 人の気持ちを感じ取れる良い人、敏感な方が心を守るための“呼吸バリア”の作り方。

なんだか人疲れするなぁ、相手に合わせちゃって苦しい、なんてことはありませんか?周りの様子を敏感に察知できるあなたは、良い人や気遣いができる人なのだと思います。さらに全人口の2割を占めるとされる、周りからの刺激を受けやすい人、HSPなのかもしれません。やさしく繊細なあなたが自分の殻に閉じこもることなく、犠牲的な人間関係から自分を守る方法についてお話します。

人口の2割を占める、HSPとは?

HSP((エイチエスピー:Highly Sensitive Personの略)は、人一倍敏感な人のこと。アメリカの心理学者エレイン・N・アーロンさんが1996年に広めた心理学的な概念です。誤解しないで頂きたいのは、HSP自体は病気ではなく、考え方や行動の傾向性を指します。そこで生きづらさなどの不具合を感じられていない場合は、とくに問題にする必要はないでしょう。HSPであるメリットもたくさんありますから。

参考:HSP (繊細さん)の特徴や適職は? 強みを活かして、敏感な心とうまく付き合うコツ

HSPの方は、人の気持ちや環境の様子や音、光などを敏感に感じ取れるので、基本的に良い人、先まわりして気遣える方が多いです。ただ察しすぎることで、周りの気分に左右されて疲れやすかったり、相手の言動に振り回されるばかりで自己主張できなかったりと、苦しい思いをされていませんか。だとすれば、自分を守る方法を身につける必要があります。

さらに、HSP傾向に加えて、頑張っている自分を認められない完璧主義者や、失敗することが人一倍怖いリスク回避傾向の強い方、自己評価が低くて自分を責める傾向が高い人は、自分にムチ打つ毎日が修行のようになります。

たとえば無理な頼まれごとであっても断れずにさらに自分を追い込んだり、相手の都合に合わせて犠牲的になったり、他人と一緒にいることに気疲れして居心地が悪くなったりと、しんどいのです。




HSPの人の特徴。

そんなHSPの方には具体的にどういう特徴があるのでしょうか。

心理学者の伊東明さんが『気にしすぎ症候群 』でまとめられている、HSPの特徴から抜粋してみましょう。あなたに当てはまるかどうかぜひチェックしてみてください。

・刺激に敏感。普通の人は気にならないような騒音でも気になってしんどい。

・集団のなかにいると、非常に疲れてしまう。

・人間関係の機微やコミュニケーションの細かいやりとりに自然に注意がいく。

・人と一緒にいるときよりも、一人で好きなことを好きなペースでやっているときの方が楽しい。

・物質にも敏感で、花粉症やじんましんなどにかかりやすい。

・人でもものでも細かな点まで様々なことが見えてしまい、気になる。

・いろんなことが気になって、心からリラックスできることが少ない。

・「人生とはなんだろう?」「幸福とは?」などつい難しいことを考えがちで、単純に楽しむのが苦手。ー『気にしすぎ症候群 』より

HSPの人の強み。

細かなところに気づけるため、HSPの方には、相手の思いを察して気配りが出来るなどの強みもたくさんあります。またリスク回避能力も高いです。心理学者の伊東さんが挙げられているメリットはこのようなものです。

・少ない情報から、たくさんのことを短時間で吸収できる。

・相手の心理状態に敏感なので、(精神科医やカウンセラー、接客や営業職、介護士、作家など)、人の心を察することが重要な仕事で力を発揮できる。

・普通の人では気づきにくい、ミスや間違い、リスクなどについて、事前に気づくことができる。

・(集中さえできれば)自分の心奥深くに入って、直感力や創造力を駆使したアイデアを思いつくことが得意。ー『気にしすぎ症候群 』より

HSPの人の弱点。

一方でHSPの方には気づきすぎることが返ってリスクとして働くことも多いのです。

他人の影響を受けやすいことで、摩擦を避けて閉じこもることになり、それを「付き合いが悪い」とか、迷惑をかけて嫌われることを恐れてはっきりと意思表示できずに「なにを考えているのかわからない」と周りから敬遠されて孤独になったり、理解されなかったりするのです。

気にしすぎるHSPの方が心を守る“呼吸バリア”の作り方。

そこで知っておきたいのが、HSPの方が内にこもってしまうことなく、周りと交流しながらも自分の心を守る方法です。その鍵になるのは、マインドフルネス。

マインドフルネスは、今ここに心を傾けて、気づいたものに○も×もつけず、受け容れて観察する意識を持つことです。さらにいえば、呼吸の力を利用します。

具体的には、以下の3ステップです。



①気にしている自分に気づいて認める。

まずは、気にしている、繊細に反応している自分に気づいて認めることです。なにごとも気づいてその事態をいったん受け止めないことには始まりません。

とはいえ「また気にしている。こんなことで!」と自分にダメ出しはしません。自分を追い込みません。良い悪いと判断しません。

さらには、繊細な自分のことが嫌だからと気づかないふりもしません。強い刺激を与えてくる相手に注意を向けて、自分の内側の変化を無視することもありません。

ただ、なにに一番心が動かされるのか、刺激なのかを、冷静に直視します。

どんなことが気になって、それがどう始まって、そのときどういうふうに自分に語りかけていて(ダメ出しや命令、コントロールなど)、その結果として、どんなふうに自分が行動しているのか。そしてそこで自分がどう感じているのか。紙に書き出してみるのもいいでしょう。ジャーナリングなども役立ちます。

参考:自然なあなたが一番美しい。ドス黒い感情やダメな視点にも価値がある! 不安、怒りを「書いて」陽転させる方法

スタンスとしては、厳しく事情聴取する検察官というより、電柱にとまったカラスのように肩の力を抜いて客観的に眺めます。「そうなんだね〜」と受け止めるのです。

この「マインドフルに気づく」だけでも、自分の心をないがしろにして頑張りすぎてしまう、疲れてしまう方にとって、心を守る効果が大いにあります。自分のカウンセラーや執事になったような感じで、自分の心を傾聴できるからです。

いつも友だちや家族、パートナーが押し通してくるようなパターンがあるとします。とりあえずその現場を「あ、プッシュされているなぁ」とまず気づいて認めてみるとか。

また、しんどいメールを乱発してくる上司だったり、誰かのLINEの既読無視に心が動揺すると気づいたとします。いつもそれがやってくるのが今か今かと心がざわついているんだと分かったら、思い切ってメッセージを開く時間を決めて、それ以外の時間は自分の心を守るために見ないと決断するとか。

人付き合いを0か100かにせず、なぜしんどいのかを見極めて特定し、がんばりすぎて本当の自分を見失わないために、ピンポイントでその原因を排除していきましょう。完璧な人は誰もいませんから、相手の欲求にすべて応えなくても大丈夫。

そうしないといけないと一番厳しくあるのは、実は相手ではなく、そう出来ない自分を認められないあなた自身なのかもしれません。

参考:一緒にいると、本当に癒される人の特徴。良いヒーラー、カウンセラーの役割、選び方とは?

②自分を守る安全で優しい膜を、呼吸でつくる。

わたしがトランスパーソナル心理学のメッカ、エサレン研究所で心身統合のエネルギーワーク『Full Body Presence(フルボディプレゼンス)』を教わったときのことです。創始者のスザンヌから、セッションを行うセラピストとしても日々を生きるひとりの人間としても、相手とのあいだに健康的な境界線(ヘルシー・バウンダリー)を設定して、自分のエネルギーを守って最大限のパフォーマンスを提供し続ける大切さについて教わりました。

参考:辛いのは無意識の選択のせい?自分を超えた大意識との繋がり方

健康な境界線を設定するというと、相手と自分を切り離すように聞こえるかもしれません。そうではありません。そうなると有効なコミュニケーションが図れず、自分にとっても逆効果になります。自分を守る意識や、自分をよく見せようという気持ちが強すぎると、相手に関心を向けられず、状況も把握できないからです。

そうではなく、健康的な境界線を設定するということは、自分の意識をリラックスさせた状態で力強く、心と体を今ここに存在させるということです。それは、自分の意識の調和をとること。鍵になるのは、穏やかで整った呼吸です。

それはマインドフルネスの実践でも同じ。穏やかな息が安全な膜となり、温かいエネルギーとなって、あなたの身と心とを包むのです。外側でなにが起こっていたとしても。

息は漢字で、自分の心と書きます。つまり、息を整えるとは、あなたの心を取り戻すこと。

イライラした人やネガティブなエネルギーを浴びせてくる人に動揺するのは、その人たちの浅くて荒い呼吸に、あなたの呼吸が巻き込まれて同調しているからです。そこで怒りや動揺の磁場に同調しないために、自分の呼吸にしっかり意識を向けること。

浅くなっているな。ちゃんと息が吸えていないな、その前にまず息が吐けていないなと気づいて、穏やかでゆっくりとした深い呼吸に戻します。目の前に起きていることをなんとかしようともがくのではなく、ただ呼吸だけに意識を向けてみてください。外側の現実よりもまず、自分の内側を整えるのです。

③相手も自分の呼吸に同調させる。

自分の呼吸を整えて、やさしく安全な膜を作れたらもう安心。さらに力強く、揺るぎない根を張るように太くどっしりと呼吸に心を留め続けます。

感情と心臓の関係性を研究する米ハートマス研究所によると、心拍変動(吸う息と吐く息の心拍数の差)の調和が取れている人の心臓の電磁場は、周りの人にも良い影響を与えるのだそうです。カウンセリングやヒーリングでも、セラピスト自身が落ち着いているだけで、クライアントの心の揺れ動きを鎮める効果があるとされています(『ソマティック心理学への招待 身体と心のリベラルアーツを求めて』より)。

つまり、相手の荒々しい呼吸に呑まれず、こちらは深くゆっくりとした呼吸を保って穏やかでいると、やがて向こうの呼吸もそれに同調してきます。

こちらの意識が相手からのエネルギーを受けないほど力強く整っているとき、安全で優しい膜の世界を自分だけではなく、相手にも広げていくことができるのです。

すぐにどうにかしようと自分を追い込んだり、焦ったりする必要はなく、相手の呼吸が穏やかになってきたら、そこではじめて対話をすればいいのです。そのほうが遠回りに見えて、実は近道です。

まとめ

今回は、周囲のことを敏感に察知できるHSPの方や、言いたいことが言えない人が自分の殻に閉じこもることなく、自分を守る方法についてお話ししました。その鍵となるのは、マインドフルネス。

思考偏重の私たちにとっては、頭を使うことが良いことで、無意識に出てくるもの(自然な反応に身を委ねること)は良くないと思うきらいが強いです。けれども、その自ずと現れ、敏感に察知してしまう“感じ”をきちんとキャッチし、抗わず、否定もせず、深くゆったりとした呼吸を保つことだけに意識を集中させる。そうすることで、あなたの敏感さや繊細さを大事にしたうえで、穏やかで落ち着いたプレゼンスを保つことができ、人と一緒にいながら自分を守ることが出来ます。