home 会社を辞めて、こうなった。 テキサスに住んでいた伯父が、私の運命を変える#5

テキサスに住んでいた伯父が、私の運命を変える#5

会ったことのないアメリカで暮らす伯父の連絡先は、東京の従姉妹から渡されていました。でも「人に迷惑をかけるな」と躾けられてきたし(この後より現在に至るまで家訓を破り、もはやたかが外れたように色んな人の好意に甘えまくることになる)、初めて会うのにいきなり無職でバツイチ、進路も迷走中の37歳の姪って、それってどうかなあーというのもあって、連絡出来ずにいました。ズタズタのプライドというハナクソを宝石箱の中に大切にしまっていたのです。そして呆然として一人、ついには語学学校をサボって海を見にいくという日々。

「この海、東京に続いているんかなぁ…。しかし、もう編集部には私のデスクは無い…」(写真はあまりの絶望っぷりを背中に見たロシアの旅人が思わずシャッターを押し、送ってくれたもの)。救いが無い。

さらには、ある朝ハウスメイトにお金を貸したら返してもらえず「家の中でも強奪か!どんな国やねん、アメリカって!!」と何かがプッツンと切れました。今まで色んな人とお仕事させて頂いたり取材してきたこともあって、人を見る目があると思い込んでいましたが、

「あたし、完全にあかんわ…。

 ここでは、何にも今までの当たり前が通用しない…」。

 

そしてショックの中で頭が高速回転で計算します。

 

1年後を目標にしていたバークレーには受験できない 

 シティカレッジで2年勉強して編入しようとしたら強盗に電話と現金を盗られる 

 でも、依然として何十万円も毎月湯水のように消えていく  

 さらに、ハウスメイトはお金を返してくれない    

 英語が話せない(なんなら聞き取りも読解もできない)

 すでに、会社は辞めちゃった)÷ 6

 × 土居彩

   絶体絶命のピーーーーーーーーーンチ!!!!!!!

 

もはやハナクソ宝石箱の扉は開かれた。そして私は大きく息を吸って観念し、「お父さんお母さん、親不孝な娘をお許しください…」と、新しく買い直した電話をとります(高かったよ)。

プルゥゥウウウウー(わぁ、鳴っちゃった!!)。

 

「はぁ〜い! えーーーー、アヤさーーーーん!?!?!? よくぞ掛けてくれましたッ! アメリカはどうですかぁー?」

 

受話器の向こうからは、めちゃくちゃ、テンション高い伯父の声が。しかも、なんかすごく話しやすいぞ。

ふむふむ、引退してワシントンD.C.から引っ越して気候の温かいテキサスのサンアントニオに伯母と夫婦で引っ越したんだそうです。

 

状況を説明しながら、彼が気さくなことをいいことにどさくさに紛れて「あのぅ…。大変言い難いことなんですが…。例えば3か月ほど伺うなんてことをしてもいいでしょうか(初対面で居候、しかも長っ!)。完全に進路を見失っていて、何をやっても実はダメで、恥ずかしいことにアメリカで生きて行く力が全くない感じで。。。3か月の間に必ず次の目標を決めますので!」とダメ元で頼んでみました。

 

すると….

「どうぞーーーー!!!! 」

「いやぁ、嬉しいなぁ! 僕ねぇ、こういうのねぇ、憧れだったんですよー。ほら、イギリスの小説とかにもあるでしょう? 甥が伯父の元に夏の間に訪ねて滞在したりっていうのが。わぁ!そういうの、いよいよ自分もやれるんだぁって。ワクワクするなぁ!有難うございますね。あ、家内紹介しますねー!」。

めちゃくちゃテンション高いし、夫婦そろって嘘みたいに大歓迎してくれる。どんだけいい人たちなんだか。ありがたや、ありがたや…。アメリカ砂漠で、骨身にしみるよ。

 

話していたら、さらには伯父がカリフォルニア大バークレー校大学院の数学科の卒業生ということが判明。

「いやぁ、卒業テストにねー。自分で概念を考えて、その計算式を書けっていうのがあってねぇー。あれはもう、「あかん…」って頭が真っ白になりましたよー。ハハハハハ! 今でも夢に見ますよ。ではサンアントニオにいらっしゃるの、心待ちにしていますね。空港まで家内と参りますので!」と電話が終わり、初めてアメリカで天国らしい時間が過ごせそう。その夜は久しぶりに心安らかに眠りにつけました。

 

翌日伯父からまた電話があって、それが再びの嵐の前触れに。

「アヤさん、電話の後でね、素人ながらバークレー校心理学部のホームページ調べてみたんですよ。そしたらね、びっくり! さあ、なんだと思いますか?」

(「全くわからない」と答える)

「去年からスタートした新しいプログラムでね、心理学部博士課程志望の他学部卒の学生に向けた専門プログラムというのが出来たみたいなんですよ。これは大学生と一緒になって心理学部の基礎課程をとりながら成績をつけられ、2年間研究室に所属して手伝って最後に簡単な論文のようなものを発表して、大学院を受験する準備を整えるものみたいですよ。えっ? よくそんなもん見つけたって? フフフフッ、こういうの見つけ出すいやらしい性格なんですよ! でねっ、アメリカの大学院を受験するには更にいやらしいGREっていう試験があるんですけどね、フフッ。なんとこれには出願の応募要項にGREが無いんですねー! 必要なのは志望動機のエッセイと推薦文2通と、TOEFLのスコア90点のみですッ」。

 

まるで「持ってけドロボー!」みたいな勢いで伯父に勧められている、“のみ”と言う応募要項でさえ、もはや立ちくらみがしそうな私。でも気を取り直して「期限はいつまでですか?」と聞くと

 

「フフフフッ、10日後!」。

エーーーーーーーーー!!!!! つかの間のメリーゴーランドから、再びのジェットコースターです。

そう、そして私は意を決して、バークレー大に電話したのです。姑息にもTOEFLのスコアと提出期限について交渉しようとして。

ー#6に、続く。