home 魂ナビ 怒り、不安は15分書けば癒せる。効果的なジャーナリングのポイントは7つ

怒り、不安は15分書けば癒せる。効果的なジャーナリングのポイントは7つ

言いたいことが言えず、辛い。

会社を辞めて右も左もわからない状態で語学学校に通いました。ドクター・スースの絵本を読みながら「バークレー大で心理学を勉強したい」と話したら、10以上年下の台湾人留学生に「絶対ムリ」と馬鹿にされる。勉強に集中しようと心を持ち直そうとしたら、突然躁鬱気味のホストマザーが錯乱し「キミは今ホームレスになった」と学長に明かされる。バスを待てば強盗に合うわ、なんだかんだで。そんな真っ暗闇のなかで、私が向かったのは日記帳でした。

英語で言いたいことが言えない。空気を軽くするジョークも飛ばせないし、やんわりと婉曲表現もできない。口を開けばissue(課題)をproblem(問題)と言ったことで誤解が生まれる。で、押し黙る。そんなときに自分の主張が吐き出せる唯一の場所が、日記帳だったのです。

夢中になって書いているうちにふと、書くことの9割は聞く作業だと気がつきました。自分の主張に根気よく耳を傾けるというような。誰も読めない日本語で書くことで、絶対に人目にさらされないので何を書いても安全。そして書くことにはカウンセリング効果があると実感したのです。

作家の村上春樹さんも小説を書き始めたのは自己治療のためだったと臨床心理学者 河合隼雄さんとの対談でお話されていらっしゃいましたね。村上さんのような素晴らしい作品が私には書けないから…と尻込みする必要はありません。書くことは自分の内側との対話、内観から始まると感じるからです。しかも日記はバッチリ安心です。そこでは、100%自分の言い分を批判されることなく吐き出せ、心理的に安全です。

セラピーにも使われるジャーナリング。

さて、日記は英語でジャーナル。現在進行形にするとジャーナリングです。

ノートに心に浮かんだことを書いて、書いて、書きまくる、というジャーナリングは、書く瞑想とも言われ、アメリカでは心理療法にも使われています。なかでも、日記だけにペン、というわけではありませんが、ジェームス・ペンベーカー博士の手法 エクスプレッシブ・ジャーナリング(表現するジャーナリング)は医療分野においても最も広く利用され、研究もされています。

 

やり方はシンプル。ストレスを感じたり、しんどい体験について15〜20分間、ノートに書き綴るのです。人に読ませるものではないので、誤字脱字があっても、前後の文脈がハチャメチャでも、全く気にしなくてOK。書いていて「こんなこと思うなんて、私って人間的に小さい」といった後ろめたさもいらず、ただ筆を進めます。

毎日15-20分ノートに思いを書くだけ。

私たちは悲しかったり、辛い出来事があると、それが強烈であればあるほど触れないようにと、無意識のうちに記憶の奥に押しやります。その鬱屈した思いをジャーナリングで発散させ、体験したことの意味を再認識することで、パートナーとの別れ(1)、愛する人の死(2)、無職状態(3)、自然災害(4)、一般的なストレスを感じる出来事(5)といった、辛い経験から回復する助けになるそうです。

またペンベーカー博士の研究によると各20分、連続する計4日間、辛い出来事や感情について書くと、長期的には免疫機能が向上するなど体もヘルシーになるのだとか(6)。

でも辛いことを書くことで、もう一度嫌な気分になりそうと思うとなんだか尻込みしますよね? そこでストレスなく行うために大まかに以下の7つポイントがあります。

トラウマ・ストレスを癒すペンベーカー博士の手法

1. 各15-20分、4日間で1セッション。PCではなく手書きで。
1セッションを数週間続けて行うのがより効果的です。

2.同じトピックについて書き続けてもいいし、毎日テーマを変えてもOK。

今日しんどかったこと、悲しかったこと。辛かったことなどについて自由に想いを綴ってもいいです。

3. 制限時間中は、書く手を止めない。文法の誤りは気にしない。
「無い、無い、無い、無い、無い….」など書く内容が無くなったら、新しい言葉が自然に出るまで同じ言葉を繰り返して書いてもOK。内容よりも、タイムアップまで書き続けることが肝心です。

4. 自分のためだけに書く。
4日間のエクササイズ終了後は、書いたものを捨ててもいいし、誰にも読まれないように隠してもいい。とにかく人目につかないという安心感を自分に与えることが大切。

5. 辛くて書けない内容は、書かなくて良い。
心の準備がついていないということなので、心理的に向き合える出来事や状況にトピックを変えて。

6. 悲しみや落ち込みを感じても、不安にならない。
開始して1、2日は、悲しみが数分または数時間続く可能性が。どんな感情が起こっても自分をサポートできるような時間をあらかじめ設定しておくと安心です。

7. 同じトピックを何セッションもダラダラと書き続けない。
ストレス改善が見られない場合は中断し、カウンセラーに相談して。

ペンベーカー博士の手法は、主にトラウマやストレス治療を目的としたものですが、創造性を回復するための文章講座というのもあって人気です。その代表がアメリカのベストセラー作家ナタリー・ゴールドバーグが行うクリエイティブ・ライティング(創作文)講座です。

全米で大人気のクリエイティブ・ライティング講座。

禅仏教の熱心な実践者でもあるナタリーが書いた文章指南本『Writing Down the Bones: Feeling the Writer Within』(『魂の文章術—書くことから始めよう』)はミリオンセラーとなり、日本語も含め12もの言語で翻訳・出版されています。この本は、すっごく面白くて日本版が絶版になっているのがとても残念! 本の中でアメリカ人のナタリーが創作や人生に行き詰まり、片桐大忍老師に教えをこうんです。 

良いも悪いも無い。ただやるだけだ(No good, no bad. Just do it)

というその禅的教えは、彼女の魂の文章術の随所に現れています。Just do itという言葉は、Nikeのスローガンでもありますよね。

さてナタリーのジャーナリングには以下の7つのポイントがあります。そのうちのいくつかはペンペーカー博士のエクスプレッシブ・ジャーナリングと共通していますが、ユニークなものもあります(7)。

創造性と繋がるジャーナリング ナタリーの手法。

1.手の動きを止めない。
何が言いたいのかわからないなら、「何が言いたいのかわからない」。無駄な時間を過ごしていると思うなら、「こんなことは馬鹿げている」と次の言葉が出るまで、思いの丈を書き続ける。手の動きが追いつくように、スラスラと滑りの良いペンを選ぶと安心。

2.コントロールを失う。
3.考えない。
4.誤字脱字、文法の誤りはムシ。
5.自由! 国宝級のガラクタを書いたっていい。
社会的、文化的なエチケットに従う必要はない。「いい人に見せたい」「うまく書きたい」と執着せず、ノートの上では本来の自分を解放して。ナタリーが言う“しょっぱなの考え(first thoughts)”を敬い、加工・編集しようとしないこと。頭の中の編集者や検閲責任者に暇を出し、自己肯定という名の特大サイズのプールで自由に泳いで。

6.具体的に。
全ての感覚をフル稼働させて表現する。例えば「彼女のせいで気が狂いそう!」ではなく、「メイって一緒にいてもずっとインスタ見てるし、映画中は話しかけてくるし、安い香水工場みたいな匂いがするのよね」といったように。ただし五感を研ぎ澄ませて書けなくても、それで自己批判したり、心配しないこと。

7.際どいところを攻めよ。
「怖いという気持ちが浮き上がってきたら、突き進め! それこそが創造性のエネルギーの源よ」というナタリー。始めは核心から逃げようとリスク周辺でうろうろしたり、はっきりしない主張からスタートするかもしれない。「でも逃げないで! 今まで心理的にスレスレのところを突いて書くことで死んだ人はいない。泣いたり、笑ったりしても、死ぬことはないから」というのがナタリーのガイダンス。

ナタリーによれば創造性を回復させるためにはまず、本来の自分を取り戻し、ありのままの自己を深く知って、それを受け入れる作業が必要だと言います。これは自己認識力とも言われ、感情のコントロールがしやすくなることからビジネスの世界では、創造性のみならず、マネージメント力を培うためのスキルとしても重要視されています。

繰り返します。

良いも悪いも無い。ただやるだけだ(No good, no bad. Just do it)

正しいも間違っているも無い。ただ書くだけです。

 

さてどこかのライターが「書いていると血行が良くなって、脱糞したくなる」と語っていましたが(私じゃないですよ)、ジャーナリングとは心と体のお掃除。モヤモヤも感じ切って、噛み砕いて、ポーンッと流してしまいましょう。つまりジャーナリングも、トイレやお風呂、歯磨きと同じだと考えれば、日課にしやすいかもしれませんね。

参考

1. Lepore SJ, Greenberg MA. Mending broken hearts: effects of expressive writing on mood, cognitive processing, social adjustment and health following a relationship breakup. Psychol Health. 2002;17(5):547-560.
2. Kovac SH, Range LM. Writing projects: lessening undergraduates’ unique suicidal bereavement. Suicide Life Threat Behav. 2000;30(1):50-60.
3. Spera SP, Buhrfeind ED, Pennebaker JW. Expressive writing and coping with job loss. Acad Manage J. 1994;37(3):722-733.
4. Smyth J, Hockemeyer J, Anderson C, et al. Structured writing about a natural disaster buffers the effect of intrusive thoughts on negative affect and physical symptoms. Aust J of Disast Trauma. 2002;1:2002-2001.
5. Schoutrop MJ, Lange A, Hanewald G, Davidovich U, Salomon H, tte e. Structured writing and processing major stressful events: A controlled trial. Psychother Psychosom. 2002;71(3):151-157.
6. Pennebaker JW. Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychol Sci. 1997;8(3):162-166.

7. Natalie Goldberg. Writing Down the Bones: Freeing the Writer Within (Shambhala).