楽しく仕事がはかどるカギ「心の資本」と、幸せに働ける企業トップ10は?

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今日から仕事始めという方も多いかもしれませんが、「心の資本」という言葉を聞いたことがありますか? 「歯を食いしばって頑張れ」の根性論ではなく、働く人たちの「気持ち」、つまり「心の資本」を高める方が生産性も幸福度も上がるのでは、と広く語られるようになっています。「心の資本」の高さを決める4つの柱”HERO”と、社員満足度が高い全米企業トップ10からみた「幸せに働く」カギについてお話しします。

仕事が楽しくはかどるカギ、「心の資本」”HERO”と、幸せに働ける企業トップ10は?

人生100年時代と言われ、社員の副業を推奨する会社も増え、コロナ禍で拡大したテレワークなどのオンライン交流など、新しい働き方が模索されています。

リモートワークは通勤時間短縮などで便利な半面、40、50代を中心とする働き盛りの孤独感が浮き彫りにもなっているとか。

「相手の表情が見えないとちょっとした一言が心に刺さる」など、システムが構築されていても心のつながりが感じられないためだそうです。

そして昨日の日本経済新聞の第一面の見出しは、「心の資本」は十分ですか、という問いかけでした。

では、 「心の資本」ってなんでしょう?



「心の資本」とは?

こころの資本(Psychological Capital:略してPsyCap)とは、ネブラスカ大学リンカーン校の経営学者フレッド・ルーサンス(Fred Luthans)特別教授らが提唱しました。

ひとことでいえば、職場において、その人がこうありたいと思う目標へ向けて、自分の意志で前向きに向かおうとする心の力のことです。

「心の資本」にもある資本とは、生産、つまり私たちの生活に必要な物やサービスをつくりだす経済活動の、3つの要素(労働・土地・資本)のひとつです。

そして私たちが暮らす社会は、資本主義経済ですね。お金という資本を元手に価値や利益を産むことを経済成長とし、推奨する社会です。

画一的な管理、根性論で生産性を高める時代は終わり。

つまり資本主義経済における「心の資本」とは、「生産性」「創造性」「会社の業績」を高めることができる一人ひとりが持つポジティブな心の力のこと。働く幸せを実感しながら、やる気ややりがいを持って目標や課題に自発的に向かう状態です。

別の言葉では、「従業員エンゲージメント」と言われたりもします。

少子高齢化による働き手の数の減少や、個人の価値観が多様化する時代背景もあり、一律的なマニュアルでより多くの成果を上げることは難しくなっています。

つまり、過去のストップウォッチなどで画一的に管理し、「もっと歯を食いしばって頑張れ」とスタッフを根性論でマネジメントしてきた時代は終わり。

経済成長にはスタッフのやる気や能力を高めながら心で動かすという「心の資本」が欠かせないのでは?と、日本経済新聞が問いかける時代になったのですね。

心の資本の高さを決める4つの柱「HERO」。

では、「心の資本」の高さを決めるものはなんでしょうか? 次の4つの心の状態の頭文字HEROが、その柱になります。

  • Hope(ホープ/希望):目標に向かって辛抱強く向かうだけでなく、必要に応じてプロセスを変えて解決の道を見つけることもできる力。
  • Efficacy(エフィカシー/自己効力感):「できる!」という感覚。課題に挑戦し、達成するために必要な努力をする自信。
  • Resilience(レジリエンス/逆境を耐え抜く復元力):困難や逆境にあっても乗り越えられる力。
  • Optimism(オプティミズム/楽観性):現状や未来の成功など物事の明るい面を見る前向きさ。

つまり、「心の資本」が高い状態とは、これらが高い心の状態で仕事できているということ。

参考:才能よりも「やり抜く力(Grit)」が成功を決める。三日坊主を克服し、レベルアップする法則6つ

参考:J.Y.Parkさんのおかげで「TOEIC初受験で920点!」取れた、魂磨き英語学習法

従業員がもっとも幸せと答えた会社トップ10は?

「心の資本」が高い状態とは、従業員が幸せに働ける状態ともいえます。

そこでチェックしたのが以下

アメリカの転職サイト「 Comparably 」が従業員500人以上の大企業6万社の従業員におこなったアンケート調査の結果です(2019年9月から2020年9月までの12か月間)。

そして、従業員がもっとも幸せと答えた上位10社が以下です。これら上位企業の社風に対する社員の言葉から、「心の資本」を高める働き方、マネジメントのキーワードが浮き上がってきます。

・心の健康を優先できる環境。

・良いチームワーク。

・適度なチャレンジ。

・自分の価値観、得意分野にあったことができる。

・開かれた組織である(決定をうのみにしない)。

などです。

*全ランキングリストは、こちらから

たとえば1位のZoomの社員の言葉からも、「心の資本」にとりくむ企業体制が高く評価されていることがわかります。



1位 Zoom Video Communications

本社: カリフォルニア州サンノゼ市

業種: 情報技術・サービス業 

社員の言葉:「経営陣や管理職は、従業員が利益よりも心の健康を優先することを望んでおり、それはすべての交流や福利厚生に明確に表れています」

 

2位 HubSpot(ハブスポット)

HubSpotは、インバウンドマーケティング、セールス、カスタマーサービスのためのソフトウェア製品を開発・販売するアメリカの企業です。

本社: マサチューセッツ州ケンブリッジ

業種: ソフトウェア

社員の言葉:「自分のやっている仕事が好きです。自分のやっている仕事が好きで、自分の価値観や得意分野とよく合っています。そして、自分が最高のパフォーマンスを発揮できるように、いつ、どこで、どのように仕事をするかという自由があることも気に入っています」

 

3位 マイクロソフト

本社: カリフォルニア州サンノゼ市

業種: コンピュータソフトウェア、エレクトロニクス  

社員の言葉:「前向きに毎日取り組めること、優秀な社員、そしてさらに優秀な上司に感謝しています」

 

4位 RingCentral(リングセントラル)

RingCentralは、企業向けにクラウドベースのコミュニケーションおよびコラボレーションソリューションを提供する米国の上場企業です。

本社: カリフォルニア州ベルモント

業種: コンピューターソフトウェア   

社員の言葉: 「チャレンジな毎日ですが、素晴らしいチームワークなので、何でもできます」

 

5位 アップル

本社: カリフォルニア州クパチーノ

産業: 家電製品

社員の言葉:「私たちの環境を包括的で、楽しく、刺激的なものにするために日々努力してくれています。私たちがあらゆる経験や視点にアクセスできるよう、膨大な時間と労力を費やし、私たち全員の創造性を後押ししてくれるのです」

 

6位 グーグル

本社 カリフォルニア州マウンテンビュー

業種 インターネット・クラウドコンピューティング 

社員の言葉:「幸せな社員は生産性が高いので、そこに貢献することは不可欠です」

 

7位 SBAコミュニケーションズ

タワー、ビル、屋上、分散型アンテナシステム、スモールセルなどの無線通信インフラを所有・運営する独立系大手企業です。

本社: フロリダ州ボカラトン

業種: 電気通信  

社員の言葉:「毎日が新しく、興味深い挑戦の連続で、国内外のチームと交流することもとても楽しいです」

 

8位 UiPath

本社: ニューヨーク州ニューヨーク

業種: AIソフトウェア 

社員の言葉:「私たちは、過度な縦割りトップダウンマネジメントという考えを持っていません。誰もが良いことも悪いことも共有し、決定に疑問を持ち、会社や市場を前進することが奨励されています」

 

9位 オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)

本社: ニュージャージー州ローズランド

業種:人事管理ソフトウェア 

社員の言葉:「この世界に変化をもたらすために、私たちを駆り立てる複雑な仕事が好きです」

 

10位 ファーマーズ・インシュアランス

本社: カリフォルニア州ウッドランドヒルズ

業種: 保険業  

社員の言葉:「”私たちは一団だ”という感覚が好きです。自分が成功したチームの一員であることを感じると、会社の共通の利益のためにもっと頑張ろうという気持ちになります」

 

Google社の「心の資本」マネジメント法。

上記の6位にランクインされたGoogle社を雑誌BRUTUSで取材させていただいたときのことです。同社は勤務時間の20%を本業以外に使うことを許すどころか義務づけて、新事業を生み出してきました。

Google社は一人ひとりの働く喜びを重視するよう唱えたアリストテレスにちなみ、「プロジェクト・アリストテレス」とよぶ社内調査を10年前から実施しています。

私が取材させていただいたのは、ビル・ドゥエインさんという同社の元エンジニア。希望して人材開発部といって社員の幸せと能力UPのためのプログラムチームの監督者になった方でした。タイの森仏教(Thai Forest Buddhism)で修行する彼は、同社瞑想室で社員に誘導瞑想をおこなっていました。

彼が「心の資本」マネジメント法として力説されていたのが、マインドフルネス瞑想の大切さ。

ちょうど彼のワークショップを受講されていた社員の方々にもお話を伺うと、定期的に瞑想することで、とくに怒りや焦りの気持ちを緩和でき、仕事や私生活での害ある心のブレが減ったとか。

自分でできる「心の資本」の上げ方は?

とはいえ「うちの会社はそんなことやってない〜」「自分一人で働いているー」という場合、ありますよね。かといって自分の「心の資本」をないがしろにすることは、働く意味でも幸せに生きるためにも、大きなリスクです。「心の資本」のセルフメンテナンス法を知っておきましょう。

というのも、たとえばいつも気落ちしているとこんなことが起きるとか。

カリフォルニア大学サンディエゴ校パウラス博士らが以下6つとして研究結果を挙げたものです。

  1. ごほうびをあげても喜ばない
  2. 自分のことを過剰に卑下する
  3. 少しのリスクでも逃げようとする
  4. 周りの状況が見えなくなる
  5. 反応が鈍くなる
  6. 将来が見えない状況に必要以上に不安を感じる

ー『何をやっても続かないのは、脳がダメな自分を記憶しているからだ』より

これらの状態から、自分で「心の資本」を上げるためにできることとは、内観です。

内観とは、忙しい生活からちょっと距離をおいて、今起きていることやその仕組みについて批判せずに客観的に観察すること。外側のあれこれから、フォーカスを自分の内側、つまり「どう感じているのか」にシフトすることです。

瞑想や呼吸法で、頭いっぱいの思考を断捨離して、ひらめきとつながりやすい状態にするというのもひとつでしょう。

参考:動画で解説! 不安、ざわざわがリラックスする、5分間の心落ち着き瞑想。

たとえば、ティク・ナット・ハン禅師に師事し、瞑想を日課にするSalesforce社の創業者マーク・ベニオフ氏。彼もまた、ハワイで1か月間とにかくリラックスしたときに、現在のキャリアに向かう新しいアイデアや展望や方向性が見えてきたと語っています。

他にもボーッとお風呂に入ったり、散歩したり、個人的には、拭き掃除やお菓子づくりなどの単純作業に没頭するのもオススメです。脳波でいうと、ひらめきが起きやすいアルファ波の状態になっています。

怒りや不安などネガティブな気持ちが強いときは、ノートと紙に思っていることを書き出すというジャーナリングも役立ちます。書き出してみると、心が落ち着いて問題の焦点が整理できるようになります。

参考:自然なあなたが一番美しい。ドス黒い感情やダメな視点にも価値がある! 不安、怒りを「書いて」陽転させる方法。

自分の言い分を内観しながら自分に思いやりをかけることで、心から満足している状態がどのようなものかわかるようになります。世間や他の人がいうからではなく、自分の中にある方向性が定まるんですね。

さらに思考の枠が外れて、それが「できる」と思えるようになると、できる方法をなんとかして探し出すというのが私たち人間の脳の仕組み。

問いのテーマがはっきりしたら、関連する本を読み込んだり、ピンときた人に話を聞いたりして情報収集するのもいいと思います。

まとめ

私たちは「働いて幸せになる」のではありません。

ちょっと難しいかもしれないけれど、「働く」への気持ちをちょっと軽くしてみせんか。たとえば「幸せな状態で働く」というゲームをしているんだという感覚を持ってみる。「心の資本」を大事にすることは、あなただけではなく、周りの人たちや生産性という形で企業の利益にもつながるはずです。