『21 Lessons』AIから心を取り戻すために、なぜ瞑想なのか。

vipassana

正解が見えない今の時代に重要な21のテーマが書かれたユヴァル・ノア・ハラリ氏の21 Lessons ; 21世紀の人類のための21の思考。最後の章では「瞑想」の大切さが、「ひたすら観察せよ」と説かれます。その理由はAIにコントロールされず、自分で自分の心を制御するため。お話ししたいと思います。

『21 Lessons』AIから心を取り戻すために、なぜ瞑想なのか。

瞑想を日課にする人たちがますます増えていますね。今日打ち合わせした方々も全員S.N.ゴエンカ式のヴィパッサナー瞑想体験者でびっくり。とても楽しい時間を過ごすことができました。

そこで読み返したのが、ユヴァル・ノア・ハラリ氏の21 Lessons ; 21世紀の人類のための21の思考』。この本では、テクノロジーや政治をめぐる難題から、この世界における真実、そして人生の意味まで、今私たちが直面する21の重要テーマをとりあげています。

ハラリ氏は、サピエンス全史を書かれたイスラエルの歴史学者・哲学者です。

彼は今から22年前にS.N.ゴエンカ式のヴィパッサナー瞑想に参加。以来、毎日2時間瞑想するようになり、毎年1か月か2か月、長い瞑想修行にも行くそうです。

ちなみに21 Lessons ; 21世紀の人類のための21の思考が出版されたのは、日本では2019年末です。

それから4年弱のあいだに、ますます世界は、混沌としていますね。

新型コロナウイルスにロシアのウクライナへの武力侵攻。人類が克服したと楽観視していた、疫病のまんえんに戦争の勃発。

ケン・ウィルバーの意識次元でいえば、まるで時代が逆戻りしたようです。

しかしその一方で、経済封鎖下のロシアでブロックチェーン上の暗号通貨が資金流出の逃げ道になっていたり、顔や声を加工できるディープフェイク技術で政治的な情報操作がおこなわれていたり。意識の逆行と反比例するように、テクノロジーは日進月歩で進化しています。

参考:AIで顔や声を合成する技術「ディープフェイク」をドキュメンタリーに。 映画『チェチェンへようこそ-ゲイの粛清-』に見る、 デジタル技術やアバター(分身)で社会を変える方法。

そのような流れを予感していたのか、ハラリ氏が21のテーマのしめくくりとして出したのが「瞑想」。ひたすら自分の心を観察せよということです。

彼がおこなうヴィパッサナー瞑想では、心の流れは体の感覚と密接に結びついていると考えます。

たとえば、不快な感覚がすると、嫌な気持ちで反応する。快感がすれば、もっとほしいと渇望して反応するといったように。

そこでハラリ氏は、怒りが何か知りたかったら、腹が立っているときに体の中で起こって消えていく感覚をただ観察すればいいといいます。

そんな彼ですが、ヴィパッサナーを行う前は、怒ったときはいつも、自分の怒りの対象、つまり誰かがしたり言ったりしたことに注目していたといいます。普通に生きていると、誰でもそうなりますよね。

けれどもヴィパッサナーでは、怒りとはどんな感覚かと、自分の感覚を観察します。

あるときは怒りで下腹部がムズムズしたり、別のときは顔が熱くなったり、喉がつまったような感じがしたり。

そして、その感覚にじっと焦点を当てていると、正規分布のように、怒りという感覚が強くなっていき、ピークを迎えると次第に下降して消えていくのが感じられます。

永遠じゃないんですね。そこでヴィパッサナー瞑想によって、ブッダは諸行無常の悟りを開いたともいわれています。

そしてその体のパターンを生み出すのは、自分の心のパターンです。

たとえば、何かを望んでそれが実現しなかったとき、心は苦しみを生み出して反応します。達成されたときは、心は喜びを生み出して反応します。

私はとくにヴィパッサナー合宿の奉仕者(サーバー)を体験したとき、これを痛感しました。もう一人の奉仕者が途中で帰ってしまい、女性側の奉仕者がたった一人になって、心のざわつきや喜びを嫌というほど体験したんです。

外側の状況に意識を向けると、心が暴れ馬のようになって、とても耐えられません。そこで、先生に相談すると「野菜を切っているときの指先の感覚に集中しなさい」と助言されました。

不思議なアドバイスですか? 外側の問題にはなんの対処もしてないですもんね(笑)。

でも素直に従ったんです。

そして、外側の状況に対して強い感情がわいたら、とにかく感覚、自分の内側で起きていることに意識を向けつづけました。

その結果、「あぁ、これが投影で、鏡の法則ということなんだな…」と腑に落とすことができたんです。

するとね、あんまり外で起きていることが気にならなくなりました。

ヴィパッサナーが終わった後に、「この合宿のMVPは彼女だ!」と参加者の人たちにキッチンの奥から呼び出され、恥ずかしいやら、照れ臭いやら。

もちろん無事に終わってホッとしたし、嬉しかったですよ。でもつくづく思ったんです。

「プラスにもマイナスにも引っ張られすぎないことがヴィパッサナーなんだなぁ」と。

参考:嫌いな自分を赦せば、愛が叶う。投影を外し、人間関係のモヤモヤを一掃する心理学。

参考:現実とは投影。私たちの波動が「現実の経験」を創造している。

あれほどピンチな状況になったのは(10日間一人で40人近い人の料理やお世話をし続けることになりました)、当時の私は、そこまで追い込まれないと、内側に意識をむけられなかったからだと思います。

そしてこの体験は、のちに顔面マヒになってから立ち直るまでの日々にも役立ちました。

私たちの日常は、外側の強い刺激に囲まれています。

電子メールやツィートの処理をしながら、AIが最適化してオススメするYouTube鑑賞やinstagramの画像たち。そこからまたツィートの繰り返し。

テクノロジーの進歩で、私たちが何者で、自分自身について何を知るべきかを、私たちに変わってAIが決めることになっていく。それはますます加速し、数年で当たり前になるだろうとハラリ氏はいいます。

参考:30年後、AIが人を超え、人は特殊メカで考えるだけで会話する超人に? 戦争か共生か、最先端神経科学が頂点に立つ”ニューロ・キャピタリズム”時代が向かう道

そこで瞑想の実践というのは、どんなテクノロジーにも正確に測れない自分の心を観察するため。

元リッツカールトン支社長の高野登(のぼる)さんが、コロナ禍で一気に変化が加速した今の時代を読み解くと、知識を学ぶ時代から知恵を磨く時代になったとお話しされていました。

では、知恵ってなんでしょう?

やっぱり自分というフィルターを通してみることだと思います。

自分というフィルター、つまり、あなたという実感は、たくさんの情報を最適化して答えを出すAIでも正確に測れません。コンピューターロボが割り出す定型的なコミュニケーションとも異なります。

見聞きした情報をうのみにするのではなく、それらを自分で感じて、自分なりの意見や答えを導き出すこと。それは、まぎれもなく、他の人には変えられないあなたという価値です。

とはいえ人と違うってことは怖いし、唯一無二である自分を感じるということも、その感覚を観察するのも怖いですよね。本当、そのとおり…。

でもあなたを感じた先に、本当のあなたであるという自由があるのだと思います。

参考:2022年、ホンネに耳をすませて最高の答えとつながりたいあなたへ。