「もうムリ…」に効く、相手も自分も癒される話の聞き方。

目の前の人とわかり合いたい、良い関係を築きたいと願うと、いったいどんなふうに話したらいいんだろう?と思いますよね。内容があって知的で、でも親しみもあって楽しくて…。なんだか難しそう。でも、話すことで頭がいっぱいになるよりも、実は相手の話をしっかり聞くほうが、一緒の時間を「心地いい」と思われるために有効なんです。全身全霊で相手の言いたいことに耳を傾けることは、ディープ・リスニングマインドフル・リスニングとも呼ばれます。これは「もうムリ」という関係性でもお互いに癒されるとあって、聞く瞑想やカウンセリング・心理療法としても使われています。今回は、わたしが禅センターで学んだ“純粋に見る(無心Not Knowing)”という傾聴法、また心理学者カール・ロジャーズの来談者中心理論から、傾聴力が高まる話の聞き方についてお伝えします。

 

心から話を聞いてくれる人は愛される。

黒柳徹子さんの自伝的絵本『窓ぎわのトットちゃん』(講談社)。主人公トットちゃんは “問題児”とされ、なんと小学1年生で退学になってしまいます。そして転入先のトモエ学園の校長先生はトットちゃんとの面接で「さあ、なんでも、先生に話してごらん」と言って、4時間ものあいだずっと彼女の話に耳を傾け続けます。話し終えたトットちゃんは、生まれて初めて本当に好きな人に会った気がするのです。

 

だって、生まれてから今日まで、こんなに長い時間、自分の話を聞いてくれた人は、いなかったんだもの。(この人となら、ずーっといっしょにいてもいい。)

と感激して。

 

「良い印象を持たれなくちゃ!」と、私たちは相手に何を話すべきかと一生懸命になるものです。面接だったら、有能な人材だと見なされなきゃいけないし、デートだったら魅力的だと好意を持ってもらわないとダメだし。交渉やケンカのときは、自分の主張が正しいことを証明しなければいけません。

 

でも、それって本当に相手が聞きたいことなのでしょうか。目の前の人をコントロールしようという思いが先行した、自分が聞かせたいだけの話かもしれません。それを察知した相手は、どんな正論であったとしても押しつけられたようなイヤな気分を抱くでしょう。

 

ウパヤ禅センターで体験した”カウンシル”。

わたしが体験し、心から癒された”話の聞かれ方”があります。それはニューメキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターというところで暮らしていたときのこと。聞き手は、僧院長のジョアン・ハリファックス老師です。彼女は、曹洞宗の総本山である総持寺の世界仏教会議でも女性として外国人として初めて基調講演をされた人物です。

Compassion 状況にのみこまれずに、本当に必要な変容を導く、「共にいる」力 [ ジョアン・ハリファックス ]

ハリファックス老師の新刊。崖っぷちに立っても、燃え尽きないためのヒントが散りばめられている。

ちなみに禅僧のハリファックス老師はもともと人類学者でアメリカ先住民の薬草の研究者でした。元夫のスタニスラフ・グロフ博士はLSDを使った変性意識下での末期ガン患者の癒し治療にあたるなど、トランスパーソナル心理学の第一人者です。二人は夫婦時代、わたしも学んだエサレン研究所などで臨床研究を行っていました。

グロフ博士はLSDの使用が法的に禁止となってからは、呼吸法で変性意識(Altered State of Consciousness)を導きトラウマを治療するという独自のセラピー(ホロトロピック・セラピー)を開発しました。

 

ハリファックス老師とのスピリチュアル・プラクティスは深い禅実践でしたが、それに止まりませんでした。その例の一つにカウンシルが挙げられます。わたしはこのカウンシルを体験して、”聞かれる”ことの力を実感することになります。

 

カウンシルでは円陣を組んで座ってそれぞれが正直に話し、聞き手は偏見を持たずに心から耳を傾けます。始める前には、カウンシルの決まりを確かめ合います。それは以下です。

*心から話す

*心から聞く

*他言しない

*無理に話さなくていい

*許可なく意見しない

 

「話す」準備が出来た人は、トーキングピースと呼ばれる小さなお守りのようなものを持ちます。それはセンターに落ちていた山鳩の羽根だったり、老師がチベットの聖山で見つけた石だったりします。

 

それ以外の人は深く耳を傾けて、話す人の話、存在、その人が存在する場所全体を包み込むようにし、話し手が恐れなく話せる場(container)をつくります。これをクエーカー教徒は「献身的に聴くこと」と呼ぶと老師に教わりました。このように禅プラクティスの場であっても、あらゆる宗教や先住民の知恵や心理学の考えなど、共感できる霊性を吟味しながら取り入れる点は、わたしにとって心地よいものでした。

 

初めてのカウンシルで、老師の”聞く力”に癒されたわたしは、その後の想いや行動が変わったのです。

 

さて当時の私は、センターに暮らして2か月ほど、初めての1か月間の接心を終えた後で禅修行に疑問を感じ始めていました。仏教では”私たちはそもそも仏である”と言うけれど、じゃあなんで厳しい修行するんだと。なにかを学べば学ぶほど、自分の至らなさが目について疑問だらけになるというわけです。

 

そこでカウンシルで老師に「どうしようもない自分を律するために早起きしてみんなにご飯を作って、一生懸命坐禅しています。そもそもぐうたらで気前が良いわけでもない私が、そもそも仏であるなんて信じられません。だったら修行はいらないでしょう?」とぶちまけました。

 

すべてを聞いて、話し手の不安を包んで溶かす。

老師は、私の疑惑、不安、悲しみ、恐れ、恥、拒絶、期待などすべてを包み込むように、ただじっと見つめてきました。口もとは優しく微笑んで、目は温かい空気が伝わってくるような目尻を少し下げ、眼差しはまっすぐ。

 

優しい沈黙のなかで力強く見つめられた私は、時が止まったように感じました。20人の輪の中で老師と私にスポットライトが当たったような気分です。

 

「彼女は、いま全身全霊で私と完全に存在している」。

そう感じました。

 

老師は「美しい…。素晴らしい…」と言うばかりで𠮟咤をせず、アドバイスすらしません。ただ純粋に価値判断を挟まずにわたしをみて、”こういう人なんだな“と知ったつもりにならず(Not Knowing)、無心でそこに完全に存在しているのです。

答えが欲しかった私なので、この対応がものたりないと思っても当然なのですが、そうはなりませんでした。それらしい言葉を受ける以上に、全身全霊で聞いてうけとめられるパワーというものを実感したのです。完全に自分の想いに寄り添われたわたしは、心のなかの疑問や戸惑いが溶けていきました。いま、自分が丸ごと受け容れられていると感じたことで、新たな気持ちで修行に取り組めるようになったのです。

 

これはカウンセリングでも受容(アクセプタンス)という手法として取り入れられています。誰にもわかってもらえないと感じる思いに寄り添われると、クライエントは安心できる。そして自己探求を始め、やがては受け入れることが出来なかった自分の一面を自己受容(セルフ・アクセプタンス)できるように成長していくのです。

 

『逆説的なようだが、自分のあるがままを受け入れたとき、人は変われるのだ』(臨床心理学者 カール・ロジャーズ)。

 

カール・ロジャーズのカウンセリング、3つの条件。

患者をクライエント(相談に来た人)と呼んだカール・ロジャーズが提唱した来談者中心理論(person-centered theory)では、癒しにつながる聞き方には以下の3つの条件があるとしました。

1(純粋性)聞き手であるカウンセラーが心理的に安定し、ありのままの自分を見せる。自己一致して、内面に矛盾がない。

2(共感性)クライアントの話にしっかり耳を傾け、よく聞いて、理解する。

3(尊重性)クライアントを無条件に受け入れて、関心を向ける。

はじめてのカウンセリング入門(下巻) ほんものの傾聴を学ぶ [ 諸富祥彦 ]

カール・ロジャーズの著作を翻訳してきた心理学者の諸富祥彦先生のこの本は、とてもわかりやすく傾聴について書かれているのでオススメ。

そして晩年のロジャーズは、老師がわたしに行ってくれたことである“そこに完全に在ること”、つまりプレゼンス(Presence)そのものが話し手と聞き手の関係を変え、互いを変容させていくと見出しました。これはエサレン研究所で習った“フルボディプレゼンス”というメソッドにも共通しています。

無意識の不幸スイッチは簡単に切り替わる。五感を使って願う現実を創造する方法

 

わたしが体験して癒しに繋がった「話の聞き方」には以下8つのポイントがあります。

 

癒しにつながる「話の聞き方」8つのポイント。

  1. 楽な姿勢をとり、余分な力を抜いて、呼吸に意識をむけてリラックスする(グラウンディングする)。
  2. 「相手が話すための安全な場所」「自分が聞くための安全な場所」を作ると決意する。
  3. 相手の話す内容を深く理解することにすべての意識を向ける。
  4. 相手が話しているときは遮ったり、中断しない。
  5. 聞いた内容に価値判断を入れたり、知ったつもりにならない。
  6. 頭がいっぱいになったり、感情にのまれそうになったら、そのつど深呼吸したり、体の感覚に意識を向けることでまず自己一致させる。
  7. 大切なのは全身全霊で聞くこと。相手の反応を意識して相槌を打ったりしない。真剣に聞けば工作をしなくても、自ずと相手にそれが伝わる。
  8. 意見を求められた場合は、偽りのない素直な人間としてその瞬間に感じたことを心を込めて伝える。わからないときは伝え返し、相手がうまく思いが伝わっていると感じられるまで確認する。

 

誰だってありのままの自分を受け入れてもらいたいという強い欲求があるもの。それは全身全霊で聞かれることで体験され、大きな変容がもたらされます。安全な場所で心から話を聞いてもらえることで、トットちゃんが校長先生に感じたようにあなたはあの人にとって心地よい存在に、そしてあの人は心から癒され、その変容を目撃したあなたは自分のことが少し好きになっていく。それはそれぞれの意識の湖に落ちた癒しの石の波紋のようで、”傾聴の癒し”の波が周りに、世界に広がっていくことでしょう。