『ノマドランド』ゴールデン・グローブ受賞に、日本初サブスクリプション住居「unito(ユニット)」も。風の時代のアットホームとは?

コロナ渦で暮らし方を実験する時代(博報堂研)です。キャンピングカーでノマド生活を送る60代女性の生き方を描く映画『ノマドランド』が第78回のゴールデン・グローブ賞を受賞。彼女のように定住先を持たずにビジネスホテル等を転々と住み渡るアドレスホッパー生活を公開するYouTuberも増えました。日本初のサブスク住居「unito」やマンスリーマンション化したリーガロイヤルホテル大阪の「Hotel Home」プランも今月開始。世界は、風の時代を象徴する、必要なときに必要な場所や必要なものをすぐ。便利でスピーディなサービスやライフスタイルがますます日常化しています。そんな動き続ける世界の快適さと喪失とは? 風の時代のアットホームについてお話しします。

『ノマドランド』がゴールド・グローブ賞受賞!

『ノマドランド』がベネチア・トロントの国際映画祭の最高賞に続き、第78回のゴールデン・グローブ賞を受賞しました。ドラマ部門の作品賞と監督賞の二冠です。

映画では、夫も家も失った60代女性の主人公が、キャンピングカーで現代のノマドとして季節労働の現場を渡り歩きます。彼女は、そんな自分を「ホームレスじゃなくてハウスレス」と呼ぶことを好みます。

ハウスとホームの違いって?

ハウスもホームも日本語に訳すと同じ家になります。ハウスがいわゆる物質、建築物としての家を表すのに対して、ホームはそれに帰るべき我が家、心のよりどころ的な精神的なニュアンスが加わります。

つまり、ノマドランド生活者には、みんなが一様に考える家という形はないけど、姿は違えどアットホームな気持ちになれる場はある、ということでしょう。逆に言えば、それをホームと感じる人がいない家もある。

私に初めてマインドフルネス瞑想を教えてくれたティク・ナット・ハン禅師は、微笑みながら当時こうお話してくださいました。

「ひと呼吸して”I’m here(私はここ)”、またひと呼吸して“I’m home(我が家に)”。呼吸のたびに、いつでもどこにいても、あなたのホームに帰れます」。

今やアドレスホッパー生活も珍しくない。

新型コロナウイルス渦で、定住先を持たずビジネスホテルなどに居を移し続けるアドレスホッパー生活を公開するYouTuberも増えてきましたね。リーガロイヤルホテル(大阪)も『Home Hotel(ホームホテル)』という長期滞在型プランを開始しました。その金額は1か月で15万円からとか。高級ホテルに1か月滞在するには破格のお値段です。ホテルがビジネスマンのマンスリーマンション化するなんて想像だにできなかったことです。

アメリカでのアドレスホッパー時代。「ホームレスじゃなくてハウスフリー」。

私自身、アメリカでは2年弱アドレスホッパー生活を送ったことがあります。計画していなかったことですが、数週間単位の瞑想合宿が数か月単位になっていき、いきたい場所も訪ねたい人も直感的な数珠つなぎのように決まっていくので、部屋を持つ意味が無くなったのです。

そんな生活をしていると、同じようにアドレスホッパー的に生きる人と出会うものです。とくに禅センターなどのスピリチュアル探究型の人には、定住先を持たないアドレスホッパー生活者やキャンピングカーやタイニーハウスで暮らす人がざらに居ました。

彼らが好んだのは、「ホームレスでもハウスレスでもなく、ハウスフリー」という言葉でした。“家が無い”というマイナスを見るのではなく、“家を持たない自由やオープンさ”に目を向けているのだという姿勢を示すのです。




私個人としては、アドレスホッパー生活を実際にやってみて、体力的にも精神的にもかなりキツかったです。最初は無我夢中でしたが、一年を過ぎた頃から、毎日寝る場所を探したり、荷造りをしたり解いたりをし続け、好きな本や物を持てないのが一生続くのかしらと苦痛になってきました。

また、となりの部屋の騒音で眠れずに心がざわついては、ティク・ナット・ハン禅師から教わったマインドフルネスの実践を試されるようでした。

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日本初!サブスク住居サービス。

敷金・礼金ゼロ、更新料ゼロ、過去退去費用ゼロ。それをより快適な形で最短契約期間1か月からのサブスクリプション住居サービスとして始めたのが外泊したら家賃が下がる「unito(ユニット)」です。さらに契約期間まるまる利用する必要はなく、その間に外泊する泊数があれば、その分の家賃が安くなるとか。


足りない家具や家電は、家具・家電レンタル「CLAS」で、洗濯機1760円/月〜、スティッククリーナー660円/月〜などがレンタルできると、暮らしに必要なものが一通りサブスクリプションレンタルできるのです。アドレスホッパーの気楽さと定住する快適さを融合するようなサービスが続々生まれています。


大丸松坂屋もブランド服のサブスクリプション開始。

私がアメリカで送ったアドレスホッパー時代では、春夏秋冬の洋服入りのスーツケース移動で苦労しました。それを解決するような洋服のサブスクリプションサービスを百貨店でも開始されるとか。

百貨店は、新型コロナウイルス渦で、ホテルや飲食店と共に高い地価の場に館を構えるリスクが大きく現れました。お客さんが何人入っても、何時間営業しても館を構え続ける必要があるからです。

そこで今月中にJ.フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店が、ブランド服のサブスクリプション(定額課金)サービスを始めるそうです。コロナ渦で落ちた衣料品の売り上げを貸し出しサービスで、モノの所有ではなく利用を促すことで稼ぐモデルを探るとか。

月額1万1000円でシーバイクロエやマルニなどの海外ブランドの商品を月3着まで選ぶと自宅などに届けてくれるます。そして洋服のクリーニングや補修は大丸松坂屋が負担。まず国内外の50ブランドほどが参加するとか。

二極化がさらに進み、ユニクロなどのリーズナブルな価格帯の商品とラグジュアリーブランドのあいだにあるブランドの需要が低下したためでしょう。サービスでは、顧客の利用データなどをブランド側と共有するので、今後の商品開発やマーケティングにも活かせるでしょう。

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必要なものを必要なときにすぐ。風の時代の軽やかさ。

持っているからすごい、自慢できるという価値観は薄れつつあります。

必要なときに必要な場所へ。持たないメンテナンスしない、必要なものだけを必要なときにすぐ。便利でスピーディ。これはまさに風の時代を象徴するような、軽やかさです。

でもどこかその場しのぎのインスタントな物悲しさもある。

そんなふうに思う私だから便利さやスマートさとは真逆のずっと愛用しているセーターの毛玉を取って着たり、大学生のときにわけがわからなかった課題図書を今になって完読する感じもまたいいのです。やっぱり実家に帰ると、親が時間をかけて作り上げて守ってきた空間が持つアットホームさにホッと寛ぎます。

風の時代と土の時代の良さをどう統合する?

同じ新聞に、作家の柳美里さんが鎌倉から震災後の福島県南相馬市に移り住み、カフェ併設の本屋「フルハウス」をやっていらっしゃるという情報がありました。高校生や高齢者の止まり木になればとオープンしたそうです。

所有よりも共有とは風の時代的ですが、身ひとつ筆ひとつの作家生活から、店を持つとは一見覚悟を伴う定住的な重荷を背負うようで、軽やかさと逆行するよう。

いいえ、さらにふわっと軽やかで素敵なんです。これこそが風の時代と土の時代の融合だなと感じました。

「そのときどきに出合い受信するものを書いていきたいと思うようになって」と柳さん。
人の関わりを絶って自宅で執筆していた鎌倉時代と違って、今は人が出入りする店で、スマホで小説を書かれているのだとか(日本経済新聞3/2付朝刊より)。

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穏やかな呼吸でいつでもホームに戻ろう。

どこに誰といても自分の中心にある。外側の世界にオープンに、心に壁を作らず大切にしながらも、自分のホームにいつもいる。信頼する。

「ひと呼吸して”I’m here(私はここ)”、またひと呼吸して“I’m home(我が家に)”。呼吸のたびに、いつでもどこにいても、あなたのホームに帰れます」。

 

スピーディーに移り変わる世界で穏やかな呼吸に戻ること。ますます大切だと思います。

参考:動画で解説! 不安、ざわざわがリラックスする、5分間の心落ち着き瞑想。