第二の畜産化と言われる培養肉って、本当にクリーンミートなの?

第二の畜産化の時代。培養肉がクリーンミートと呼ばれる理由。

野生動物を飼いならして、こう配させて増やして食品と変えてきたのが第一の畜産化。そして第二の畜産化と言われるのが、動物の細胞を培養させてつくる、食用動物性タンパク質の人工培養肉です。動物を殺さず人道的で、家畜による温室効果ガス軽減の脱炭素化で環境に優しい。鳥インフルエンザや狂牛病の恐れもなく、抗生物質やホルモン剤も使われないため、クリーンミート と呼ばれることもあります(『クリーンミート 培養肉が世界を変える』より)。

国連食糧農業機関の報告(2013年)によると、世界の温室効果ガスの総排出量のうち、実は畜産業だけで14%に上るといいます。特に多く排出するのが牛で、65%を占めます。餌である飼料の製造過程や、家畜の糞から出るメタンガスなどが原因です(※)

また鶏を卵から成長させるまでに6か月分のシャワーよりも多くの水が使われるとか。日本に暮らしていると実感がわきにくいですが、水不足はきたる2025年には世界的な問題になると予測されています(National Intelligence Council, Global Trends 2025: A Transformed World, (November 2008).より)

培養エビで自然の海を守る、シンガポールのスタートアップCEOサンディアさん。

今日の新聞にシンガポールの培養肉スタートアップ、シオック・ミーツCEOのサンディア・シュリラムさんの取材記事があって、興味深く読みました。サンディアさんは、培養エビの商品化を目指しています。

私は知らなかったのですが、天然エビ漁では違うエビが網にかかってしまった場合、捨てられるそうです。またマングローブ林を伐採してエビの養殖場を建設することがあるとも。そこでサンディアさんは、海洋資源を傷つけずに人口増の食料需要に対応したいと培養エビの商品化に取り組まれているとか(日経新聞3/3付朝刊)。

細胞を培養される際にも、エネルギーは使われる。

とはいえ良いことばかりではありません。
培養肉では逆に、ラボで細胞を分離し、アミノ酸やタンパク質などの栄養素を与えて細胞を増殖させる生産過程で、エネルギーが使われます。その結果、エネルギーの選び方や使い方によっては、より温暖化を加速させる可能性もゼロではありません。

10年以内で、スーパーで培養肉を手に取る時代に。

また、現在の単価は市場に出すにはまだまだ高いものです。2013年に最初に登場した培養肉ハンバーガーは、なんと一個3500万円。その後一年で、1個1400円ほどで作れるまでに技術躍進しました。

米・カリフォルニアのMemphis Meats社(メンフィス・ミーツ)はビル・ゲイツなどのビリオネアの投資も受け、2021年度に培養肉の販売を目指しています。まだ自然肉より高いでしょうが、2030年までにはそう変わらない価格の培養肉製品がスーパーに並ぶだろうと言われています。



とはいえ3Dプリンターなどを利用して肉の筋肉層を再現するなどの技術を試作中で、まず市場に出る予定の培養肉は、ミンチ状の肉のみです。ステーキや焼肉好きの人が満足できるほどの培養肉というのは先の話です(※)

また、ラボで作った食べ物だからと、命をいただくという食への尊厳や感謝が薄れてしまわないかとも思います。海外で暮らしてみたことで、「いただきます」と手を合わせてから食事をいただくという日本の習慣が改めて素晴らしいと気づいたんです。何気ない行動にその姿勢がすべて込められている気がするから。食べものの作りかたや得かたが変わりゆくことで、その心が失われてしまうかもしれないと個人的に少し不安にもなります。

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「ヴィーガンだから関係ない」と言えなくなった。

私は20年以上ヴィーガン寄りのベジタリアンだったので、今まで培養肉のトピックは、「そこまでするなら動物性タンパクを食べなきゃいいのに」と横目で見ていました。

ところが昨年末に顔面マヒになって、神経修復のためにビタミンB12の薬などを処方されるように。それが動物性タンパク質からしかとれない栄養素だということを知って、食事が肉や魚を積極的に含む献立に変わり、培養肉のトピックが自分ごととしていっそう気にかかるようになりました。

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さらにいえば肉だけでなく、卵、野菜や果物だって、培養の技術が応用できるのなら、なにかの生命をまったく奪わずに食事する時代がやってくるのかもしれません。さらにいえば、食のスタイルも変わって、一口で1日の栄養素とカロリーが食べられるカプセルや、食べていないのに美味しいご馳走に満腹できる仮想現実の世界が現れるのかもしれません。

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少しずつ培養肉が私にとってクリーンミートかどうか、情報を集めたいと思って、今ほんの少し自分が知ったことをシェアさせていただきました。本当に世界がどんどん変わっていき、興味深いですね。実際に試さずにあれこれいうのもなんなので、いずれ高級品ではない状態で市場に出たときは、一度食べてみたいと思います。