home 東京薪割り生活 [21]みにくいアヒルの子

[21]みにくいアヒルの子

家の近くの川では季節の移り変わりに合わせてカワセミ、サギ、アヒルを見かけますが、先日はダイブした後に勝利の蟹を咥えたペリカンのようなものにも遭遇しました。大きな鯉も泳いでいて、この都会の川は何やら凄いことになっています。

 

隔離生活の中、この河辺の散歩は私にとってはちょっとしたレジャーで、人生学習の場でもあります。羽毛の奥をクチバシで掻こうとするアヒルの翼から、ニュッととても鮮やかな美しい孔雀色の羽根がのぞき、ほぉおっと感嘆の声をあげるのは私ひとり。マスク姿の中年女が河辺でじっと身動きせずアヒルを見つめているなんて、奇妙でしかない光景ですが、ふと気づけば周りはアヒル以外全員マスク姿。みんなそろって仲良く奇妙です。

 

何よりも感銘を受けたのは、あの美しい孔雀色の羽根は泳ぎ始めると何事もなかったかのようにサッと折りたたまれて秘められる点。あんなに綺麗なのにちっとも見せびらかすことなく、それどころか体が痒いときに体勢を変えた場合に、チラッと覗くだけ。普段はスッピンで完全にオーラを消した大女優のようです。さらには獲物をとろうと頭を川底につっこんでダイブするときにバタつかせるオレンジ色の足と全開のお尻ったら。なんという控えめさと気取らなさでしょうか。その飾らない美しさが、心の奥深くに響きます。

 

今はKazさんの『般若心経 総合的ガイド』の翻訳をしています。アメリカから帰ってちょっと安心させられる状態になってからご連絡しようと思っていたのですが、それを待っていたら来世持ち越しになってしまいそうだと決意。コロナのどさくさをいいことに様子を伺いがてら、近況報告しました。

「どうですか?」と聞かれて、

「(エロ、恋愛、占いという←※刺激が強すぎるので、これは伏せる)ツワモノたちのなかで、異色と言われながらほそぼそひっそりと連載しております…ハハハ」。

 

「では止まっている翻訳があるのですが、お手伝いいただけませんか?」

 

「よろこんで!」

 

ひとつ返事でお仕事を受けた後に、英語とサンスクリット語と漢語が手をつないでみんなで踊っているその原書を確認して、愕然! 

 

それはサンスクリット語 法隆寺版、漢訳 玄奘版、英語 エドワード・コンゼ版、など般若心経の16テキストを文法、語法とともに比較しながら解説していくという内容でした。最後の般若心経のマントラ「ぎゃーてぇーぎゃーてぇー」じゃなくって、その気分は「ぎゃーひぇーぎゃーひぇー」です。

 

むずっ。

 

そうだった、Kazさんはただのいい人じゃなくって、バークレーの生ける仙人だったのだ…。

(翻訳し終わる頃には、理解できていますように…)。

 

一頁翻訳したら頭が爆発しそうになったので、翻訳したら河原で散歩してもいいというポイント制を取ることにしました。リフレッシュ出来るし、行動心理学者B・F・スキナーの報酬で行動を強化するオペラント条件付けの力も借りて。今日はポイントをすでに使ってしまったので、頭を川底につっこむアヒルのように足をばたつかせながら、引き続き般若心経の世界にダイブしたいと思います。