home 東京薪割り生活 [12] 不思議な万年筆

[12] 不思議な万年筆

翻訳中にぴったりの言葉が見当たらないとか、次の連載のテーマが思いつかないとか、もっとザックリ人生そのものに対する不安やら自分の存在自体への無価値観やらで頭のなかが重〜くなってくると、瞑想の先生のアドバイス、「体の感覚に戻りなさい」に従います。

考え自体は、信じさえしなければ無害です。でもそれをじぃーーっと握りしめて、考えが自分そのものだと思い込んでしまうと、私のなかの戦争が勃発します。だから「お、やってきたな」と思ったら、無心で没頭できることに行動を切り替えます。食いしん坊だからベジまんを皮から作ったり、オールドファッションのドーナツを揚げたりもしますが、定番は掃除です。頭がすっきりするだけじゃなく、家の中もキレイになって一石二鳥です。

頭のなかがこんがらがっているときほど、普段「恐ろしい」と後回しにしていた未開の地を攻めこんでみます。先日はモノが溢れ、秘密の花園化していた事務用品周りを整理することにしました。使えるペンと使えないペンを一本ずつ調べ、埃を払って拭き、とやっていると、古い輪ゴムがひっついた万年筆が出てきました。

ところで私が暮らすヨーコちゃんのマキワリハウスは、宝箱のようなのです。というのも「スラスラと滑りがよいペンが必要。ゴミを増やしたくないし、万年筆を手に入れようかな」と思っていたところなので、なんというグッドラック! 輪ゴムの跡を布で拭き取り磨くとピカピカに。おや、なにやら刻印がされています。

93.8.26   Poie

「この万年筆、借りていい?」とヨーコちゃんにメールして「ちなみにどなたの?」と聞くと、はっきり誰のものかわからないそう。たぶん叔母さんか、万年筆がお好きだったお祖母さまのものだろうというのがヨーコちゃんのよみ。

そこでPoieという言葉について調べてみると、「つくる、生み出す」という意味のギリシア語が語源の医学用語がある様子。ヨーコちゃんのお父さんはお医者さんだったし、旅したいろんな国のコインを残すような生活を彩るセンスがある人だから「お父さんのでしょう!」と私は自信を持って断言しました。ところが、1993年はヨーコちゃんのお父さんが亡くなった後なのだとか。

では、ヨーコちゃんの誕生日は9月27日。8と26、それぞれに1を足した数だけどそこまで回りくどいことはしないだろうし。弟さんや甥っ子さんたちの生まれた年でもないそうで、謎は深まるばかり。

さて吸引式の万年筆なんて使ったことがないから、両手を濃紺に染めながら、まずインクを変えて日記を書いてみます。やー、スルスルーっと気持ちがいいなぁ。スラスラ書いているとブシューっとインクが飛びました。焦ってティッシュでノートを拭くと、なんとなく雰囲気のあるグラデーションになって、まるで書道芸術のKazさんの作品のよう。ウットリ。こんなふうにして、マイクロな世界で小さな冒険を繰り広げて楽しんでいるから、引きこもってしまうのです。

さてPoet(詩人)という言葉も、このギリシア語がルーツのPoieが語源だそうです。だから最近は掃除や料理に加えて、この「生み出す」万年筆に「どうしたらいい?」と尋ね、万年筆からの答えをノートに書くというのもやってみています。