[44]倒れる

はじまりは、襲いかかってくるようなカスタードクリーム熱でした。

 

無性に「カスタードクリームが食べたい」と思って、卵黄3つ分に豆乳をたっぷり、そして少量の小麦粉、甘みは先達がブラジルのお弟子さんからわけてもらったハチミツを使って鍋いっぱいのカスタードクリームを作りました。

 

十分に冷ましたそれにホイップさせた豆乳生クリームを加えて、ニンマリしながら頂いていたのです。

 

口卑しいもので、翌日用に保存していたタッパー分も驚くことに平らげてしまったという夜。

 

お腹がしくしく言い始め、吐き気もある。トイレとベッドを行き来しながら、倒れるようにしてその日は就寝しました。

 

翌朝目を覚ますと、なぜが“丹後半島”という言葉がくっきりと頭に残っていて、「広い海が見渡せる部屋で暮らしてみたいな」と思ったら、またお腹がシクシク言い始めました。そこでメールに返信して再び寝室へ。

 

すると激しい生理痛がやってきてロキソニン錠を探す余裕もなく、目にしたアメリカで買ったイブプロフェン錠を口に2つ放り込み、うんうんうなされて気絶するようにしてバタリ。

 

いろんな夢を見ました。

 

勤めていた会社の元上司がなぜかわたしの実家を訪ねてくる夢。わたしは実家で療養しているのです。でも“実家”と思っている家は、まったく知らない家です。

 

ホオノキの濃い緑色の大きな葉がかかる、古いバウハウス建築のようなシンプルだけど玄関部分が色調違いの飴色の木がモザイクのように組み合わされてアクセントになっている家でした。こんな建物、現実に見たこともありません。

 

そのときの会話も覚えています。この元上司はわたしが辞める数年前に会社を辞めましたが、退職後も本を出したり、雑誌で面白い企画をしたりと精力的に活動されている人です。そんな彼が見舞いに訪ねてくれるという設定自体とんちんかんなのですが、それが夢の世界というもの。

 

「◯◯さん(上司の名前)は、いつも肩の力が抜けていていいですね。羨ましいです」

「今のあなたもそうじゃないですか」

「でも会社にいるときはそうじゃなかったです。会社にいたときに、今のようであれたらよかったなと思います」

 

元上司は玄関を出て軽く会釈して、わたしも一礼してその後ろ姿を見送りました。

 

翌朝になっても全身が重くて立ち上がれず、もうこのまま寝てしまおうと思いました。そう思うとふっと気が楽になりました。次の夢は、わたしはダンス部員で大勢の仲間たちと舞台に立っています。姿形はわたしとはまるで違う人間。そもそも日本人じゃないんですから。

 

みんなそれぞれ違った舞台衣装というよりもモードな私服のような衣装を着て、色は全員白と黒で統一されています。金髪のわたしは黒髪の女性と二人一組になって踊ります。

 

目が覚めると夕方の17時でした。本ぐらいは読もうとキャスリン・マンスフィールドの『園遊会』を数ページ進めると、空腹なことに気がつきました。もう丸一日以上眠り続けているのです。

 

ふらふらと台所に降りて豆乳を沸かし、昨晩投げるようにして冷蔵庫にしまったチョコレートがけのオールドファッションをかじりました。チョコレートがかかっているところはまだカリッとしていたけど、あとの部分はしめったオールドファッションでした。

 

温めた豆乳を飲んで、ドーナツを平らげてしまうと、再び体がだるくなり眠りに落ちました。こんなに眠り続けられるのかと我ながら驚きます。

 

今朝の夢はこうでした。わたしはテストを受けています。答案には七福神が描かれていて、その旗に正しい言葉を書きこみなさい、と言われます。先生(らしき人)に尋ねると「七福神」や「祝」や「寿」などはダメだそうです。

 

「なんだったかなぁ」「なんだったかなぁ」と思っているうちに、「これは夢なんだろうな」と気づき、眠りと目覚めのあいだのような空間に入りこみました。

 

そこで「まだ具合がよくないな。今日も寝込むのかな」と思っていたら、突然「シュール。シュール」という歯のあいだから息を強く吐き出すような音がして、そのシュールシュールというものが体を半円のように小さくして眠るわたしの丸い背中を覆うようにして被さってきたのです。外は大雨でした。現実の雨が椿の葉に吹き付ける音と、夢うつつのシュールシュールの音が重なり合う。

 

それは大きな横長の顔をした白髪頭の小さなおばあさんのようでした。実際見ていないのにその姿を感じるというのはなんとも不思議な感覚です。緑や朱色だののカラフルなちゃんちゃんこのような上っぱりを着ています。動こうとしても体を動かすことができません。「シュール、シュール」という音がどんどん耳元に近づいてきて大きくなります。

 

とても恐ろしい。でもどこか冷静に「今日は起きなさい」ということなんだろうなと気づいて、体を起こそうと決めると顔を前方に傾けることができ、起き上がることができました。「シュール」の音ももう聞こえません。

 

そして今、目を覚まして一番にしたこと。七福神の旗の言葉を調べました。

「宝」でした。