home 東京薪割り生活 [28]たかがスポンジ、されどスポンジ

[28]たかがスポンジ、されどスポンジ

会社員時代、料理家さんのクッキングページを担当していたので、毎月料理家さんの家に通って取材と撮影をさせていただきました。

 

そこは外国人マンションの最上階で、玄関にはほとんど白の少し紫がかったシャクヤクが飾ってあり、洗面所のリキッドソープはアヴェダのペパーミント。シルバーは若いころから少しずつ蚤の市などで集めた古いクリストフルだそうです。それは全く妥協しない美の世界で、その日だけは感化され、入稿をすませて深夜の駅前24時間スーパーで花を買ってみたりしていました。

 

「市販のスポンジの色って、なんてアグリーなのかしら。ピンクだったり黄色だったりブルーだったり。白でいいのに。わざわざ染めの1工程増やして醜くするっていうのが信じられない」。

 

そこで料理家さんが愛用するのが無印良品のスポンジでした。これが発売されたとき、彼女は救われた思いがしたそうです。それ以来薄ピンクと黄色とブルーの3個組スポンジをスーパーのカゴに入れるたびにビクッとしていましたが、先日近所に無印良品があることを知り、白スポンジを手に入れました。

 

たかがスポンジ、されどスポンジ。

 

環境への意識が高いヨーコちゃんは、プラスチックゴミが出ない布スポンジを利用しています。ヨーコちゃんがすごいなぁと思うのは、そういうことを絶対言わないところ。ヨーコちゃんが東京のマキワリの家に帰って、「私が洗うよ」と台所に立つとスポンジ候補がふたつシンクで待ち構えています。するとヨーコちゃんは自然と布スポンジにたすきを渡して、目玉焼きの黄身がついたお皿を洗います。でも「このほうが環境にいいから」とか「布スポンジにしたら」とか絶対に言いません。ヨーコちゃんにはそういうところがあるんです。そっと助けてくれるけど、私が私の課題に集中できるようにコントロールの手綱は緩めておいてくれる。私の大好きな恩人たちはみんな、そう。彼らはいろいろ自分でやってみないとわからないということが、本当によくわかっているから。

 

こちらが興味を持って聞いてみたときは別として、「こんなボランティアをしている」「地域貢献している」と尋ねていないそばから言われると、ちょっと面倒くなっちゃいます。私って、未熟だから。ムーミン谷のミィみたいな会社員時代の上司、シノさん風にいうと「なんだか、つまんないなぁ」。

 

失礼がないように一生懸命聞きますが、ポッと温かくなったハートの炎が少しずつしぼんでいくのがわかります。とはいえ私も素敵なことはすぐに伝えたくなるタチだけど、相手が覗きにくるまで秘密にしていたほうが格好いいっていうところがあるんだな、とヨーコちゃんから教わりました。チラリズムの魔法。聞くほうの準備が整うまで待つほうが、思いも届く感じがします。それからコツコツやっている人にはあまりにその行動が自然だから、誰かにそれを言うという発想すら当たり前すぎて起こらないんだろうなぁ。これは、何かを静かにしっかりとやっている人に共通することです。

 

「布スポンジはしっかり泡立たず、洗い上がりがシャキッとしないなぁ。でもどうしてヨーコちゃんはあれを使うんだろう」と疑問に思って調べたことで、「あぁ…海の生き物を傷つけるプラスチックごみが出ないからなんだ」と気付きました。でも今の私はお皿やコップがシャキッとキレイになるから、スポンジを使っています。白いシンプルな見た目も気に入っているし。ふたつの価値観を行ったり来たり、それが今の私。遅いとか早いとか、間違っているとか正しいとかはちょっと置いておいて、全部大切な体験です。

 

ある日家にあるスポンジを全部使い切ったら、いろいろ調べてみるのも楽しいかなと思いました。台所に立ったヨーコちゃんが「あっ」と思うような、素敵な出合いがあるといいな。新しいスポンジ選手がシンクのレーンで待機していても、きっと私たちはそれを特に話題にせず、冗談交じりに日々の冒険について語らい合うのでしょう。