無意識の不幸スイッチは簡単に切り替わる。五感を使って願う現実を創造する方法

誰もいない山で木が倒れたら、音はするか。

という禅の公案があります。

答えは、音はしない。

人は自分が意識を当てたものを見ています。音は認識されることで音になります。それを知覚し、音だと判断する存在(意識)がない限り、音はその構成要素である音波のままなのです。

意識されないものは、存在しないも同然。

つまり、その人が意識しないものは、その人の現実には存在しないのです。

どんな素晴らしいものも、どんな嫌な気分にさせられるものでも、その人の現実には。

クリストファー・チャブリスとダニエル・サイモンズというハーバード大学の心理学者が行った実験でも、私たちが集中して何かをとらえているとき、見失うはずがないものでも、認識の枠から外れてしまうことがわかっています。

参考記事:お金、恋愛、仕事の悩み。ノートを使った簡単な現実書き換え法

参考記事:不安、怒りを書いて陽転させる方法

前向きな気持ちは認識力を拡大させる。

『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』の幸福心理学者バーバラ・フレドリクソンは、私たちが否定的な気持ちにとらわれているとき、視野が狭くなるので、最適な判断が下せなくなると言います。逆にポジティブな感情は、私たちの心やハートの境界線を開放させ、視野を拡大させるそう。それはまるで、朝顔が太陽の光を受けて花開くように。

前向きな気持ちになることで、文字通り視野が広くなったという心理実験もあります。

例えば飴玉をもらっていい気分になった治験者たちのほうが、そうでない人たちに比べてモニターの端にある写真にも目を向けるようになったそうです(1)。

大学院の試験前に飴をもらった人たちは、そうではない人たちに比べて点数が高かったり、テストを受ける前の子どもたちに「いい気分になったときのことを思い出して」というとより高い学習結果が得られたり。視野が広くなったことで、問題解決能力が高くなったという結果もあります(1)。

医者たちが難しい診断で分析を下すとき、「感謝のしるしです」と飴が入った袋を受け取ってポジティブな気持ちになるとよりよい医療判断を下せたというものさえも(2)。





では、どうしたらいい気分になれるか?

わたし自身、幸せな気持ちの決定的要因はなんだろうとずっと模索してきました。

 

子どもの頃は、お母さんが焼いてくれたフルーツケーキに赤いドレンチェリーが入った一切れがあたったとき。

大人になるに従って、それが好きな服、よい成績、十分なお給料、尊敬される仕事、パートナー、友だちとのお茶の時間、家族の健康、周りの人の評価と加わって、条件が増えて複雑になってきました。

 

会社を辞めてそれらを一気に失ったとき、わたしはとても嫌な気持ちを味わいました。

持っていたら「幸せ」だと信じていたものが無くなったことで、「わたしは価値がない」と自己否定に走ったのです。予想しないほど、幸せな気持ちどころか嫌な気分を味わいました。

嫌な気分がどういうものか、それがどれほどわたしの心と体、その人生を蝕むのか。そして突き詰めて言うとそれはすべてわたしの「そんな気分を自分に味わわせる」と選択した結果だと思い知りました。

 

感情には22段階ある。

わたしたちはポジティブからネガティブまでさまざまな感情を体験します。それを22段階に区分したものが、エイブラハムの教え感情の22段階。心理学者のバーバラ・フレディクソンの実験結果のように、エイブラハムの考えも、わたしたちの抱く感情によって、見えるもの、認識できるもの、体験できるものが違い、それに共鳴した現実が創り上げられていくとされています。

 

【エイブラハム 感情の22段階 】

1.喜び/智/溢れる活力/自由/愛/感謝
2.情熱
3.興奮/没頭/幸福感
4.ポジティブな期待/信念
5.楽観
6.希望
7.満足
8.退屈
9.悲観
10.フラストレーション/イライラ/我慢
11.圧迫感
12.落胆
13.疑念
14.心配
15.自責
16.挫折感
17.怒り
18.復讐心
19.憎しみ/激怒
20.嫉妬
21.不安(身の危険)/罪の意識/無価値
22.恐怖/悲嘆/憂鬱/絶望/無能

 

実際になるほどと思ったのは、

わたしがアメリカで暮らしはじめた半年の間に、サンフランシスコの大通りで真昼間に、強盗に財布と携帯を奪われたり、家主が躁鬱病だったホームスティ先から突然追い出されたり、図書館からつけられてストーカー被害にあったり。英語の発音がおかしいと馬鹿にされたり、貸したお金が返されないなどといいように扱われたり、約束は破られ、無視もされたという現実を6ヶ月間で一気に体験しました。

 

半年前までは女性誌の編集者として、著名人の方の取材をしたり、たくさんの新製品発表会に向かったりと全く違う自分を体験し、セルフイメージ(自分に対するイメージ)も異なるものでした。

 

ところが会社を辞めてアメリカに来たわたしは、自分の状況に絶望しながら語学学校に行っていて、当時の自己否定はマックス。

無価値や不安、絶望というネガティブな感情まみれだったわたしは、それにぴったり合った現実を体験し、そしてまたその感情を繰り返し味わって、それに連動した体験を招くという負のループに入っていたのです。

あのときは、「願ったとおり、カリフォルニアで生活している」という大前提の幸せや喜びを感じる余裕がなく、視野も狭く、なにもかもに悲観してしました。

 

その後、ギフトの世界に生きる人たちの在りようを見ながら、つながり、喜び、感謝、幸福感という1〜3の感情を感じたことで、バークレー大への扉が開きました。

ギフトの世界に生きる人たちとのストーリー

思考ブロックが外れ始める。ギャングの巣窟で鍵をかけずに暮らし、ギフトし続けるヒーローたち#9

50年以上サンフランシスコのど真ん中で食べ物を贈り続けるツリーさん#10

お会計ゼロ円レストランオーナー、ニップンさんのギフトな生き方#11

 

そしてバークレー大でしゃかりきにやりながら、今度は半分ぐらいの年齢のクラスメイトに囲まれ、自分の歳への劣等感や英語漬け世界に追い込まれて再び21、22という感情に飲まれしまい…。

「充分じゃない」「もっと頑張らないと!」ヴィパッサナー瞑想で自分にダメ出し号泣。心の膿が吹き出す#14

 

なんどもなんどもわたしが繰り返してしまうこの無意識の負のパターン。

どこで何をやってどういう状態であっても、なにか嫌なことがあれば、21、22というネガティブな気分に陥ってしまう。

外側の現実に左右されない自分との関係性、太い軸を築きたい。そのためには自分よりも長くプラクティスを積むコミュニティの中で実践するのがいいだろうと、家を引き払って禅センターやスピリチュアルセンターで暮らし始めました。

 

ところが禅センターでは最初の数か月間。ふたたび自分の体験に抵抗して、21と22のネガティブな感情を感じていました。

100人近い人の食事を作ったり、何百枚もお皿を洗い続けて1日が終わるという毎日に憂鬱になりました。坐禅を知らせる鐘の特別な打ち方、導師への香の渡し方、英語で詠むお経など、毎日新しいことを学び、それをすぐ実践するという日々のなかで不安でいっぱいでした。

 

「目の前にあるシンプルな作業をひたすら行うだけの毎日。頭が打たれるような負のループから抜け出す核心にも触れられず、特別なスキルもキャリアも身につかず、アメリカ滞在ビザが切れて日本に帰って何にもないわたしはどうなってしまうんだろう」と絶望しました。

 

でも、それこそが核心だったのです。

 

禅センターは、冬は深い雪に包まれる山の上にありました。ある朝作務の合間にレジデントたちと一緒に雪合戦をしました。子どものようになってはしゃぎました。

 

そのとき、手にした雪が痛くなるほど冷たくて。

この手が感じる冷たさ。

これこそが今わたしのなかで実際に起きていることなんだと実感したのです。

頭のなかの不安や絶望は、どんなにリアルに思えたとしても、今起きているものではない。

自動的なネガティブパターンから抜け出すには、体(五感)に集中して、そこに生きている感覚と繋がることが必要なんだ。それを体験のなかで知りました。

 

ネガティブパターンを断つには、少ない情報を五感で体験する。

ネガティブな考えや気持ちに陥って、同じ行動を繰り返す過去の自分をつなげる無意識のパターン。その接続を切り離すには、情報量が少ないものごとを意識的に体験することが鍵になります。

ネットだったり、難しい会話だったりは、情報量が多く、さらに受け身で情報を浴びることになるので、五感をフルに使って感じるのは難しいものです。そこでできるだけシンプルな体験がオススメです。

例えばそれは雪の冷たさだったり、皿洗いで触れる水温だったり、料理中の香ばしい香りだったり、音楽の音色だけに集中してみたり。

 

意識を今に向かわせ、体を使って体験するのです。

自分という存在のなかに入ることで、負のループから抜けて、認識力を拡大させるのです。

 

幸せは外側の現象に左右されないというエックハルト・トール。

満たされない気持ち、心配、不安、落ち込み、絶望といったネガティブな感情に陥らないためのコツとして、彼はアドバイスします。

雨や風の音を聞いたり、空を動く雲の美しさを見たりと、シンプルな出来事を楽しんでごらん、と(3)。

 

私たちが何気ない現実に隠された一瞬の奇跡に気づき、そこに意識を向けて喜びや幸せや驚きを味わうとき、その感情が私たちの認識を開き、望まないパターンに陥っている場合はそれに気づくようになっていきます。

自己防衛やネガティブパターンに陥らず、いったん目の前の現実を受け入れ、あえて自分を傷つけるようなものは、もう選択しなくてもよいのだと人生に許可が出せるようになります。

その結果として、望む現実を創造していくことになるのです。

 

参考

  1. https://greatergood.berkeley.edu/video/item/positive_emotions_open_our_mind
  2. https://www.chicagotribune.com/news/ct-xpm-1995-02-22-9502220168-story.html
  3. Eckhart Tolle『A New Earth』(Penguin)